Pocky Game
剣道部・稽古の休憩中,ポカリを飲みつつ涼んでいると,道場の外壁にもたれてぼんやりしているが目に入った。
もまた俺と同じく剣道部だが,男子とは別の場所で稽古をしているため,こうして部活中に顔をあわせるのは珍しい。
俺は汗を拭いながら,彼女に近づいた。
「おつかれ」
「土方君…おつかれさま」
道着と袴,防具を身につけた状態で座り込んでいるも,稽古休憩中なのだろう。汗に濡れた髪が,赤くほてった頬にくっついている。
そんな彼女が口にくわえているのは,
「いいもん持ってんな。ポッキー」
「…なんか,その言い方カツアゲみたいだよ?」
「あ?…ンなことねェだろ」
くすくすと笑うの横に,同じように座った。風が吹いてきて,汗ばんでいる俺達の髪をすり抜けていく。
剣道女子が稽古の休憩中にポッキーを食す…か。なんか,CMみてェなシチュエーションだな。
「1本くれ」
「いいよ。はい,どーぞ」
「サンキュ」
そんなに大してポッキーが好きなわけではないのだが,CMのような光景だったからだろうか。
やたらと美味しそうに見えたので,1本もらうことにした。
それに…こいつがポッキー食ってるとこ,エロい。なんとなく。
赤い口に吸い込まれてゆくポッキーを見ていると,ちょっと興奮した。
それで,ちょっとからかいたくなった。
「もう少しくれ」
「うん。いいけど…土方君甘いの苦手じゃ…?」
「ああ。だから,その『少し』でいい」
「?」
はポッキーを半分くらいくわえたまま,首をかしげた。俺はさっと顔を近づけて,
「!」
彼女が食べているポッキーの反対側を,ぱくりとくわえた。
「!!」
目の前での目が大きく見開かれ,息を呑むのがかすかに聞こえた…
…が,構わずそのままぽりぽりと俺はポッキーを食べてゆく。
「!!!」
声にならない声をあげるは,やはりちょっとエロいと思った。
それでこそからかい甲斐がある。
けど…こいつなんでポッキーを折らねェんだ?
早く折らねェと…
「!!!!」
只でさえ近かった顔と顔との距離が…もっと言うなら唇と唇との距離が徐々に短くなってゆく。
は羞恥心を堪えるかのようにぎゅっと目を閉じ…って,いやいやちょっと待て。
「…おい」
「?」
あと数センチで口と口がくっつく,という距離のところで,俺は自分からポッキーをぱきんと折った。
はきょとんとして俺を見返して来る。いや,だから…
「…なんで逃げねェんだ,お前はよ」
「…あ。そ,そっか!」
「そっか,じゃねェ!」
あーーーーーったく!!!
こいつは,なんでこうもぼんやりしてんだ。
試合の時にはばしばし竹刀を唸らせてるくせに,普段は人よりも天然というかのんびりというか…危なっかしいことこのうえ無ェ。
「お前のそういう態度が男に誤解をもたせるんだよ!」
「も,もたせてないもん!」
は首を激しく横に振って,大きな声で言い返してきた。
「いーや,もたせてるんだよ,俺に!」
「だ,だから!それは誤解じゃないってば!」
「いーや,誤解を……誤解が………は?」
「あ」
風が強く吹いた。
「「…」」
稽古場の向こう側にあるグラウンドから,野球部の掛け声が響いてきた。
「…誤解じゃないもん」
「…そうか」
俺達はしばらく無言で見詰め合った。そして,
「こ,これ全部あげる!」
は俺にポッキーを箱ごと押し付け,慌しく立ち上がった。
「それじゃね!ま,また明日!」
「…おう」
違う理由で真っ赤になった顔を両手で押さえながら,彼女は走り去っていった。
「…」
残された俺もまた,自分の顔に集中する熱に浮かされていた。
がくれた箱からポッキーを1本取り出し,くわえる。
「…甘ェ」
やっぱ甘いもんは苦手だ。でも…
…とりあえず「また明日」ではなくで。
今日の稽古後は,あいつを待って,一緒に帰ろう。
甘い物が嫌いとは思えない甘い人。
2014/6/03 up...
十二代目・拍手お礼夢その1。テーマ『お菓子な関係』