やんちゃな子トラ


※肉球星産のお米とマタタビ星産の餡子を使った,新しい味わいのお団子です。
 肉球のように柔らかいお米で,マタタビのように甘い餡子を優しく包みました。
 香ばしいハーモニーをどうぞお楽しみくださいませ。
 ただし,この広大な宇宙…星人の体質によっては猫化する場合があります(平均2~3時間)。
 鮮度を保つためにも開封後はお早めにお召しあがりください。


(なんだそりゃ)

…と呟いたつもりだったが,口から出たのは「ニャ~」という鳴き声だった。マジでか。
手を見下ろせばそこにあるのは,虎柄の毛並みの前足。
手の平を見ればそこにあるのは,小豆色の肉球。
耳に意識を向ければ,ぴくぴく動く三角形2つ。
背後を振り向けば…見慣れない尻尾がゆらゆら。マジでか(2回目)。
松平のとっつぁんが天導衆の誰其からもらっただとかいうお菓子を口にしたら,このざまだ。

けどまァ,この姿なら大手を振ってサボれるからいいか(適応能力超高)。
いつも大手振ってサボってるけど。

「沖田隊長ー!どこですかー?」
「二ギャッ(げっ)」

尻尾を甘噛みしながらくつろぎ始めたら,聞き慣れた呼び声が襖の向こうから聞こえてきた。
耳をすますと,軽めの足音が真直ぐこちらへと向かってきているのがわかった。
…面倒くせェ女が来た。

「沖田隊長ーーー!副長がお呼びですよー」

声の主から逃げようと,反射的に俺はダッシュした。
のやつ,俺がサボっているの見たらいっつもプリプリ怒るからな。
しかも土方にチクるし…説教ブスめ。
黙ってりゃそれなりに可愛いのに。
(…いや待てよ)
この姿なら別に逃げる必要無くね?
ていうか逃げるにしろ,襖とかドアとかどうやって開ければ良いんだ,この手(前脚)で。

「隊ちょ……あら?」

俺がもたもたやってる間に襖が横に開き,が部屋の中に入ってきた。
は足元の猫(俺だ)にすぐに気付いて,にこにこ笑いながら屈みこんだ。

「君,どこから迷い込んだの?」
「ウニャウニャ(べつに迷い込んでねーよ)」

辛辣に言い返すものの,俺の口から出るのはやはり人間の言葉じゃなかった…それはともかく。
普段俺には見せやしない優しい笑顔で,は猫(俺だ)に問いかけてくる。
…なんでィ,そんな顔もできるんじゃねーか。

「ね,沖田隊長見なかった?」
「フニャロニャンニャン(答えられるわけねェだろ)」

俺は猫だぞ,猫(今は)。わかってんのかィ,この女は。
もしかしてナチュラルに動物に話しかけるタイプなのか。
俺のツッコミを無視し,は引き続き話しかけてくる。

「沖田隊長はねー…えっと……髪が栗色で,目が丸くて,体やせてて,口がすごく悪くて,いじめっこで,
 食べ物の好き嫌い多くて,サボリの常習犯で,」
「ニャ~グニャゴニャゴ(言ってくれるじゃねーか)」

人が聞いていないと思って好き勝手言いやがって。
やっぱり説教ブスじゃねーか。
けど,は俺の(とは知らずに)頭を撫でながら言うもんだから…いまひとつ怒りが湧いてこない。
むしろ気持ち良くて,思わず目が細くなっちまう。しかも,

「でも,本当はとっても優しいんだよ」
「…」

顎の下をゆっくり撫でながら,小娘は言った。

「それに,本当はすごくかっこいいし,素敵なんだよ」
「…」

あー…気持ちいい。
ゴロゴロと喉が鳴っちまうのは,の手の感触が心地よいってのもあるけど。
他の理由も,にゃんとある。
…じゃなくて,ちゃんとある。

「君,ちょっと隊長に似てるね」

膝の上に乗せられて,もう一度頭を撫で撫でされる。

「いい子いい子」
「…ンニャ」

んちゅ~

「えっ」

精一杯背伸びをして,口をくっつけた――そのよく喋る口に。
理由は,にゃんと(ちゃんと)ある。
『そうしたかったから』だ。

「び,びっくりした」

猫に口付けされたは,目を白黒させながら自分の唇に触った。
まァ,こいつにしてみりゃ猫毛と猫髭と猫鼻の感触が口に残っただけだろう。けど,

「わたし,猫とファーストキスしちゃった…」

この小さな呟きに,俺の耳はぴこんぴこんと忙しなく揺れた。
こいつの『初めて』を奪った…ラッキーと思っちまうのは,どうしてか。
その理由は,にゃんと(ちゃんと)わかってる。だから,

「ニャ~ォニャォニャニャ(人間に戻ったら,3回目以降も奪うからな)」

そう宣言しつつ再度背伸びをして,俺は2回目のキスを奪った。



猫ちゅーは色々と憧れ。



2012/09/22 up...
十一代目・拍手お礼夢その1。