世話焼きな黒猫
※肉球星産のお米とマタタビ星産の餡子を使った,新しい味わいのお団子です。
肉球のように柔らかいお米で,マタタビのように甘い餡子を優しく包みました。
香ばしいハーモニーをどうぞお楽しみくださいませ。
ただし,この広大な宇宙…星人の体質によっては猫化する場合があります(平均2~3時間)。
鮮度を保つためにも開封後はお早めにお召しあがりください。
(落ち着け…落ち着いてタイムマシンを探せ)
いくら原作で主人公及びレギュラーキャラの猫化(あとゴリラ化)があったからと言って,こんな所で
やって良いと思ってんのか。いや良くない。
よしんば猫ネタをやるのは良いとしても,完全に乗り遅れてるだろうが。
猫化はコミック32巻だぞ。何巻分ひらきがあると思ってんだ。
…やっぱダメだろ,普通に考えて。常識的に考えて。それにしても,だ。
(あのクソ親父,とんでもねェもんよこしやがって…)
毒づいてみたところで,こんな姿じゃ全然迫力もなにもないだろう。
窓ガラスにぼんやり映る俺は,眼光鋭い全身黒色の猫だ。
(どうすっかな…)
2・3時間で元に戻るんなら,それほど騒ぐことでもないかもしれない(いやあるけど)。
さいわいもう夜だし,雑務を明日に回さなければいけないってだけで,他は特に人と会う予定もない。
今攘夷浪士に騒ぎを起こされでもしたら,大問題だが。まァそこは何もないよう祈るしかあるまい。
「あ~良い湯だった」
「ニッ(は?)」
廊下の方から機嫌よさそうなひとり言が聞こえてきて,俺は耳をぴんと立てた。
スキップでも踏んでいるのか,不規則な足音が響いて来る。
そして,スパンッと豪快な音を立てて襖が開け放たれた。
「土方さーん,ドライヤー貸してください!」
「二ギャッ(ぶっ!)」
現われたのは,自分によく懐いている女中ので…
こいつが部屋に来ること自体は,さしておかしいことではない……が!
湿った頭から滑り落ちる水滴,
細い首筋に張り付く髪の毛,
湯上りで火照った肌…を包んでいるのは極めて薄い生地の襦袢一枚。
体のラインがくっきりはっきりよく見える。というか,ほとんど透けている。
「あれっ?…猫だ!」
「フニャャャャャ(ななななな)」
俺の驚きなどお構いなしで,そいつは部屋にずかずかと入ってきて畳に座った――って!!!!
「ミギャ…!フニ゛ャャァァァアアア!(おまっ…!なんつー格好でうろついてんだ!)」
「え!なに?なんで怒ってんの??」
今自分の姿が猫になっていることも忘れ,俺は怒鳴りつけた。
(こいつはここをどこだと思ってんだ!?)
こんなむさくるしい男所帯を,肌蹴た襦袢姿で歩く女なんて無防備すぎるにも程があるだろうが!
襲ってくださいと言ってるようなもんだぞ!
「わ,わたし動物から嫌われるタチじゃないはずなんだけどな…」
「フニャロゴニャニャ!ニギャロニャゴ!(誰かに見られていねェだろうな!早く上に何か着ろ!)」
つーか「ドライヤー貸せ」ってなんだよ。
たしかこの前は「携帯電話の充電器貸してください」って頼みに来たよな?
なにかしら物壊すたびに俺んとこ来やがって!
…いやそれはべつにいい。むしろ他の奴から借りるな。
「こ,困ったなあ…」
は喚き散らす俺を見下ろし,戸惑ったように眉を八の字に垂らした。そして,
「ねえ…そんなに怒らないで。ね?」
「!」
毛を逆立てている俺の背中を撫で,ゆっくりと抱き上げた――って,まずい。
いや何が『まずい』って…あれだ。
「なにも怖いことしないから,ね」
「…」
「落ち着いて,ね」
…胸が鼻先に当たってる。
こいつは今そりゃあもう物凄く薄着で,しかも胸元が肌蹴ているのだ。
したがって…顔が胸に埋もれてる,と言っても過言じゃない。
「可愛いね」
「…ナウ」
…猫になってよかった。
「副長ー!!」
「「え?(ニャ?)」」
突然呼び声が聞こえてきて,俺達は廊下の方を同時に見た。
慌しく走って来る足音がして,部屋の前でぴたりと止まり,襖が何の躊躇もなく開かれた。
「副ちょ……」
「あっ山崎さん!」
襖を開けた姿勢のまま,の襦袢姿を見て山崎はフリーズした。
あんぐりと口を開き,しかし目はしっかりを凝視している。
そんな山崎の様子に気付くことなく,はにこにこと笑う。
「土方さんはここにはいな,」
「ごめんごめんごめん!いや違うから!これ違うから!誤解だから!本当に違っ……ぎゃあああ!」
「フシャァァァアアアア!!!」
ばりばりばりばり!!!!
「ななななんだこの猫っ…痛っ!いたたたたた!!!!」
「フニャァァァァ!!ゴロニャゴフニャゴロニャ!!!(山崎ィィィィ!!テメェ切腹だ死ね!!!)」
猫になってよかった…刀抜くよりも速く爪を出せるからなっ。
「こ,こら!引っ掻かないの!めっ!!」
「ニャオロミャンニャオニャ!(お前は早く上に羽織れ!)」
「あいたっ」
無防備極まりない子猫の頭を,俺は肉球でぽかりと叩いた。
もちろん爪は きちんとしまって。
君はかわいい僕の黒猫。
2012/09/22 up...
十一代目・拍手お礼夢その3。