包帯clove
普段は船内で暮らしているせいか,買出しなんかで1度外に出ると色々なものに目移りしてしまう
のが人の性なわけでして…
「あ!これ…また子ちゃんが言ってたポッキーだ」
季節限定・おでん味のポッキーを見つけて駕籠に入れる。
どんな味がするんだろーなー。一緒に食べようっと。
「そうだ!武市先輩に草大福買ってってあげよっと」
武市先輩はなにかと優しく接してくれるから,たまにはちゃんとお返ししないとね。
高杉さんは「あいつの優しさは邪まだから近づくんじゃねーぞ」て言ってたけど。
「わ~この『お鼻スッキリ薬』,ペンギンの形してて可愛い」
似蔵さんに買ってってあげよう。
ただでさえ似蔵さんは周囲の人達から怖がられがちだし。
ペンギンの形の薬使ってたら少しは皆の印象変わるかも。
「万斉さんにはチョコ包みの抹茶味買ってってあげよっと」
意外と甘党なんだよね~万斉さんは。
『クールに見えるけど実は甘党』ってそのギャップが可愛いなあ良いなあ素敵だなあ…と思ったり
する。
「あと新作のお菓子は…」
わたしはウキウキと駕籠にお菓子を入れまくってレジに並んだ。
会計を済ませて店を出て,鼻歌を歌いながら帰路につこうと歩き出して…
「あ。高杉さんの包帯忘れてた!」
慌てて店の中に戻って薬品コーナーに向う。棚に並んでいる白包帯の値段とお財布の中身を照らし
合わせ――冷や汗が出た。
「やばい…足りない」
ちょっとお菓子を買い過ぎたかな。どうしよ…。
ふと隣りの棚に目を移すと,そこにはでかでかと『只今大特価!!』の文字。
そして矢印の先にはどーんと山積みにされた包帯が。
「あ!こっちの包帯なら買える!」
わたしはホッとして大特価の方の包帯に手を伸ばした。
これでなんとか大丈夫だ。
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「今日はお店にその包帯しか残ってなかったんですよ」
「…ほお」
わたしが手渡した包帯を前にして,高杉さんはにやりと笑っている。
――いや笑ってない。口の端は上がっているけど目が笑ってない。
気のせいか包帯を持ったその手がぷるぷる震えている気がする。
「たまには良いかな~…なんて」
「…こいつを俺に巻けと?」
「そ,そういうことになりますね」
射殺さんばかりの強烈な視線を向けられて,わたしは思わず目をそらす。
(そんなにだめだったかなあ…)
高杉さんの手の中にある包帯をちらりと見る。
そりゃあもういたって普通の包帯だ。
たしかに大特価ではあったけれど,機能は普通の価格のものと同じだ。
ただ…ちょっとだけ…
…花柄ってだけ。
「誰が巻くかよ,こんなの」
ぺっと高杉さんは花柄包帯を投げ捨て,
「今すぐ買い直しに行って来い,」
有無を言わさず,財布をわたしに押し付ける。
「ええ~っもうすぐ夕ご飯の時間なのに!?」
「関係ねーよ。どうせお前のこった…余計なもん買いまくって金が足りなくなっちまって安い包帯
しか買えなかった,てーところなんだろ?」
「…ちっちがいますよ(うわっバレバレだ)!!!」
「とにかく今すぐ買って来い!」
「え~…」
口を尖らせても,じたばた手足を動かしても,ぶーたれても,高杉さんは「買い直せ」の一点張りで
全然聞いてくれない。
「どうしてもこれ使ってくれませんか!?」
「使えるわけねーだろこんなもん」
「で,でもきっと似合うと思いますよ!」
「んなわけあるか」
うっ…本当に怒ってるよ,高杉さん。
青筋が浮かんでるし。眼光鋭過ぎだし。
でももうすぐ夕ご飯なのにまた外に出るのは絶対やだ!
お腹ぺこぺこなのに!!
「似合いますって!」
わたしは夕ご飯のため,胃袋のため,握りこぶしをつくって力説した。
「高杉さんはすごく格好良いから,こういう柄物も絶対に着こなせますよ!!」
間。
「今なんて言った?」
「え…『絶対に着こなせますよ』?」
「その前だ」
「『似合いますって』?」
「その後だ!!」
「『高杉さんはすごく格好良いから』?」
「…」
「…」
「…」
「…あの?」
「…貸せ」
「えっ?使ってくれるんですか?」
「…今回だけだ」
「よ,よかった!はい,どうぞ!!」
やったー!これで夕ご飯を食べられる!!
わたしはいそいそと花柄包帯をパッケージから取り出して,それを左目に巻くのを手伝った。
高杉さんは先程とは打って変わって,すごく嬉しそうに微笑んでいた。
――その後,花柄の包帯を巻いてご機嫌な鬼兵隊首領に誰もつっこめない状態がしばらく続いた。
2009/01/24 up...
初代・拍手お礼夢その1。