災い転じて愛になる



無事に新年を迎え数日が過ぎ去って,新年会や初詣といった種々のイベントも,
一段落がついた。
街角から正月バーゲンセールの垂幕が姿を消し,テレビ番組ではお正月特番は
終わって新しい連続ドラマが次々と始まった。
徐々にお祝いムードが薄らいで『日常』を取り戻しつつある今日この頃。
白い息を吐きながら,わたし達真選組の女中4人組は屯所の庭で洗濯物と格闘し
ていた。
三が日は新年会のためのお節料理を作ったり,膨大な量の年賀状の整理をしたり
といったお正月ならではの女中業務に汗水を流していたけれど。
今はもうそういった仕事も終わって,普段どおりの業務に戻っていた。

青く張り詰めた冬空の下,わたし達は制服やシーツやアイマスク(誰のかは言う
までもない)をせっせと物干竿にかけていく…が。
女4人が同じ場にいて黙々と作業をこなすわけがなく。
「どこそこの足つぼマッサージがよく効くらしい」とか「そよ姫が酢昆布のCM
に出るらしい」とか,色々とお喋りしながら洗濯物を干していってた。

―――だがしかし。

「ちゃんもそろそろ良い人見つけないとねえ!でも若いってホント羨まし
 いわぁ…わたしも青春時代に戻りたいもの。子育てを経験するとね~どうしても
 『女らしさ』から縁が遠くなっちゃって駄目だわ~」
「男は甲斐性だよ,。『貧乏人は心が優しい』ってのは根も葉もないデマ
 だよ。金はあるに越したことはないから」
「あははっ!その点,隊士の皆さんなら安心ですよねっ。皆公務員だもん。最初
 は給料低いけど,福利厚生しっかりしてるし,長い目で見れば退職金がっぽり
 ですし。,狙い目だよっ。ていうか誰が好きなのっ?」

…一体どういう話の流れでこういう話題になったのか。
気付いた時には,
『真選組隊士の中でに1番合う人は誰か』
という話で盛り上がっていた。
……え?なんで?

三者三様の個性溢れる意見を聞きながら,わたしはカッターシャツをぱんっと
広げた。

「やだなぁ。誰かに語るような恋バナなんてわたしは無いって!」
「「「え~」」」
「いや揃って『え~』って言われても困るから!」

不満そうにブーイングをする皆に思わずつっこむ。
わたし以外の3人は全員既婚者で,だから殊更ひとり身のわたしの恋愛模様が
気になるらしい。
――こういう話題のネタにされるのはかなり恥ずかしいものがある。
つっつかれて「どうなのよ?」と訊かれるのはなんだかむず痒いし照れくさい。

でもわたしは「やめて下さいよ~」と表面上嫌がってはいるものの…内心では,
『皆から見たら誰と1番合っているように見えるんだろう?』って。
実は結構乗り気で,皆と一緒にきゃいきゃい騒いでいた(わたしも所詮ただの
女だ)。
これも「いやよいやよも好きのうち」ってやつかな,うん。

まあそんなこんなで。
まず1番年長の徳子さんが,干したシーツの端をぴっと引っ張りながら言った。

「副長はどう?クールだし二枚目だし」
(やっぱりね…)

徳子さんは絶対副長の名前を最初に出すって,なんとなく予想してた。
だって「うちの人の若い頃にそっくりだわ~…」と「もしも副長に口説かれでも
しちゃったらわたし突っ走っちゃうわ~」が徳子さんの口癖だもの(ちなみに
これを聞いていた土方さんは盛大にお茶を噴出していた)。

「え~…副長ってそんなに良いですか?」

でも徳子さんの副長推薦に対して,ちょっぴり毒舌な朱美さんは,

「あのマヨネーズへの執着は変質者じみてますよ。しかもあの煙草の量…本当に
 やばいでしょ。あの人なにかと『自分は戦場で死ぬ』的なこと言ってますけど,
 むしろ生活習慣病の延長で病死する確率の方が高くないですか?」

制服のスカーフを洗濯バサミで留めつつ,すごくもっともですごくキツイことを
言い放った。
すると,わたしと同い年で新婚ほやほやの彩ちゃんは,

「でもそういうのは結婚すると変わるんじゃないですか?ていうか,わたしなら
 変えさせますっ。それに,土方さんってにはちょっと優しいよね!」

そう言いながらキャッと笑った。新婚独特の幸せオーラ満点の可愛い笑顔に,
わたしもつられてにこにこしてしまう。

「あ~…うん。かっこいいよね,土方さん」
(山崎さんの方がかっこいいけど)

と,心の中でこっそり付け足す。
―――そう。

まだ誰にも話したことがないけれど…
…わたしは女中になってからずっと山崎さんに片想いをしていたりする。

山崎さんとわたしは時々一緒にミントンしたり,買い物に行ったりする仲なわけ
でして。
だから『わたし達って周りからはどう見えてるのかな』って,内心はドキドキし
ながら山崎さんの名前が出るのを待っていた。

「じゃ,局長は?なんだかんだで男は誠実なのが1番よ!あの人なら絶対に浮気
 なんてしないし。それに,いざとなったら副長が盾になってくれるから,局長
 はきっと殉職しないわよ~」

…って,徳子さん!?
なにげに酷いこと言ってません?!
普段あんなに「副長はいい男だ」って言ってるくせに…
…ていうかさっき大プッシュしていたのに,いきなり盾扱いはどうよ!?

「でもゴリさんにはもう想い人がいるでしょう?たしか…『お妙さん』だった
 かしら?」
「朱美さん,仮にも局長なんだから『ゴリさん』なんて言っちゃ駄目ですよ!
 それにその女性からはフラれ続けてるらしいじゃないですか。チャンスよっ,
 !わたしも近藤さんはお父さんみたいで大好きだもんっ」
「『お父さんみたい』って…近藤さんはまだ三十路前だよ,彩ちゃん。確かに
 近藤さんは心のきれいな人だけど」

(山崎さんの方が心きれいだけど)

と,やはり声には出さずこっそり付け足す。
だってわたしは…山崎さんの優しさに惚れちゃったんだから。
毎日ご飯を食べ終えた後に「美味しかったよ」って必ず言ってくれたり。
副長に叱られて落ち込んでたら「大丈夫だよ」って慰めてくれたり。
手荒れが痛くてたまらない時,何も言ってないのにハンドクリームを買って来て
くれたり。
そういう優しさが積み重なっていくうちに,山崎さんのことばかり考えるように
なっていて。
気が付いたら大好きになっていた。

――んでもって現在に至るわけで。
井戸端会議中,こっそり心の中で山崎さんを大プッシュしているんだけど。
徳子さんが次に名前を出したのは,またもや山崎さんじゃなかった。

「あ!沖田隊長は?年は隊長の方が1コ下よね?ぴったりじゃない!」
「ドSだし不祥事起こすしドSだけど…顔のつくりは綺麗ですよね」

毒を吐く朱美さんも,隊長のルックスの爽やかさについては認めざるをえない
みたいで。うんうんと頷いている。
彩ちゃんは丁度手に持っていたアイマスクをぴろーんと引っ張って,

「隊長はよくをからかうけど,あれって『好きな子ほどいじめたい』って
 やつだよね。ちょっと大変そうだけど…隊長の意地悪は陰湿だから」
「…うん。沖田さんのいじめは本当に半端じゃない…でも可愛いよね,本当に」

(山崎さんの方が可愛いけど)

風邪ひいた時に粉薬飲むの失敗してゴホゴホむせているところとか。
庭で雀の群に粟をまいてにこにこ笑っているところとか。
もう本当に山崎さんは何してても可愛いんだから!
…ていうか。
なんで山崎さんの名前が出てこないの??
わたしが首を傾げたところで,徳子さんが頭上に豆電球を灯した(古典的な表現
だけど)。

「ああ!あの人を忘れてるじゃない!」

そうそう,山崎さん!

「伊東さん!」

ちがーーーーーう!!!!
いや,伊東さんは良い人ですけど!でも違うゥゥゥゥゥ!!!
思わずわたしは干した枕カバーをばしばしと掌で叩いた。

「あ!あの人良いですよね。文句ないですよ。インテリだし,家柄良いし,剣も
 強いし,出世頭だし」
「それに伊東さん,動物好きなんだよね~屯所にいる時はいつも猫に餌をやって
 るよっ」
「部屋もいつもきれいにしてるしねえ」
「紳士だしフェミニストですよね」
「というわけで,伊東さんはどう?っ!」
「…え?」

ぐるんっという音がしそうな勢いで,彩ちゃんがわたしの方に顔を向けた。
枕カバーを叩きまくっていたわたしはきょとんとして3人の顔を見た。

「伊東さんは普段から紳士だけど,ちゃんには特に優しいわよねえ…土方
 さんと同じで」
「ああ,あの2人は根が似ているんですよ。結局のところ」
「ねっ,は誰が良いの?」
「えっと…あの…」

え?なにこの雰囲気?
6つの瞳が一気にわたしに集中していて怖いんですけど。
ひょっとしてその4人の中から選ばなくちゃいけない感じなの?
確かに4人共それぞれに素敵な人たちだとは思うんだけど…けどなあ。
山崎さんが1番素敵なのに。
でも名前が出ないってことは,少なくとも今この場にいる3人の中ではそんなに
高い評価じゃないってことなのかな~山崎さん。
この空気の中で「山崎さんが良いです」って口にしたなら…皆の反応がちょっと
怖い。

(でも嘘はつきたくないし!)

わたしは自分の前掛を握って,おそるおそるその名前を口にした。

「えっと…わたしは…その…や,山崎さんがいいなあ…なんて,」
「「「「はあああああああ!!!???」」」

いきなり数メートル先の植え込みから叫び声が上がったのと同時に,がさがさっ
と騒音を立てて4つの人影が飛び出した。

「「「「!!!!」」」」

当然,わたし達女中4人はびくっと身を跳ねさせてそっちに注目した。
植え込みから飛び出して来たのは――近藤さん,土方さん,沖田さん,伊東さん。
まさに今話題にのぼっていた錚々たる(?)メンバーだった。

突然の彼らの出現にわたし達は何の反応もできず,ただただ彼らの姿に目を丸く
した。
固まっているわたし達にはお構いなしで,4人はぎゃいぎゃいと捲し立て始めた。

「なんでよりにもよってザキなんだよ!あんな死の呪文のような名前の奴が!
 『近藤さんは心がきれいな人』って言ってくれて…嬉しかったのにィィィ!!」
「あんっな地味の底辺を這いつくばってるような野郎の一体どこが良いってんだ,
 !?お前さっき俺を『かっこいい』って言ってたじゃねーか!ありゃァ
 嘘か!?方言か?!」
「嬢,寝言は寝てから言うもんですぜィ。きっともうかつて無いくれェに
 壮絶に寝不足なんでしょ?添い寝してやりますから行きやしょう」
「沖田君!どさくさに紛れて不埒な発言をするのは止めたまえ!だいたい今の
 話の流れからして1番有力だったのはこの僕だろう!」

てんで好き勝手に怒鳴り散らしている彼らの会話を聞くに…つまりは…

((((…盗み聞き?))))

天下の真選組の幹部4人が,正月明け早々そろってデバガメ?
暑苦しく騒ぎまくっている彼らとは真逆に,わたし達女性陣の空気は急速に冷え
ていた。

「あらまあ大の男達がそろいもそろって…ねえ」
「あんた等いつからそこにいたんですか?この税金泥棒共めが」
「葉っぱが洋服についてますよ~皆さん。洗濯物に出す前にちゃんと払っといて
 くださいね」

徳子さん,朱美さん,彩ちゃんの氷の視線が彼らに降り注がれた。
…ていうか。

(『わたしは山崎さんを好きです』的な発言を…局長達も聞いてたなんて!)

自分の顔が真っ赤になってるってことが,鏡なんか見なくても頬をかすめる冷た
い風でわかった。
この4人に聞かれたら回り回って山崎さんの耳に入っちゃうかもしれない…
…そう思うと恥ずかし過ぎて頭を抱えたくなった。

(なんで聞いてんのよーーーこの人達は!!)

男ならちゃんと仕事しなさいよ,仕事!!
しかも山崎さんのことを『地味の底辺』だの『死の呪文』だの…
………しっ失礼な!!!

「ちょっと…!」
「おいコラ,伊東」

一言文句を言おうと口を開きかけたけど,土方さんが伊東さんにメンチを切った
ことでわたしの言葉はあっさり遮られた。

「てめェ女中ウケが良いからっていい気になってんじゃねーぞ。男はなァ,多少
 不器用なくれェが丁度良いんだよ」
「土方君,負け惜しみはみっともないからやめたまえ。生活習慣病の延長で死に
 たいのか」
「それとこれとは今関係無ェだろーが!!!!」
「あ~でも男の『不器用な優しさ』って確かに重要よ~」

土方さんと伊東さんの口論に徳子さんが口を挟んだ。

「ちゃんは副長より年下だけど,男の遠回しな愛情表現もちゃんと察する
 ことができるから。すごく似合ってるわよ~2人は」
「フッ…そうでしょう,徳子サン」
「あらやだ~副長ったら。わたし突っ走っちゃいそうだわ~」
「スンマセン,それは無しの方向で」

土方さんは徳子さんに頭を下げた――鬼の副長に頭を下げさせる徳子さんって,
ある意味すごい。
すると朱美さんは肩をすくめて頭を振った。

「え~わたしはやっぱり伊東さんを推しますよ。は普段のんびりしたコ
 だけど,頭も良いコですから。学のある男じゃないと釣り合いませんって」
「ありがとう,朱美君」
「そういえば『だんご屋魂平糖』に新しい団子が出たらしいです,伊東さん」
「お安い御用だ。今度買って来よう」

むしろアンタらくっついたらどうなんですか(あ,不倫になっちゃうか)。
けれども彩ちゃんは拳をぶんぶん振って口を尖らせた。

「わたしは近藤さんとにくっついて欲しい!だって見てるとほのぼのして
 癒されるもん。それに,もし局長のお嫁さんになったら隊士の皆からもれなく
 『姐さん』って呼んでもらえるんだよ!これってかなりオイシイと思うの!」
「彩ちゃん偉い!…でもなんかその理由ってどうなの!?」
「オイ,彩嬢。俺と嬢の方が似合うだろィ」
「だって沖田隊長とじゃ,が苦労しそうで嫌だもん!」
「……………大丈夫でさァ。Sは本命には優しいから」
「今の間はなんですか,今の間は!!」

……おーい。
わたしが置いてきぼりなんですけど。
あれ?話の中心って一応わたしなんじゃなかったっけ?
曲がりなりにもわたしの話だよね?
確かに最初っからわたしより皆の方が喋ってはいたけどさ。

「あの!わたしは…!」
「ちゃんは結構背が高いからね!この中では俺が1番背が高いんだし,
 俺と並んで歩くのが1番ぴったりだよ!」

近藤さんの大声でわたしの声はまたもやかき消された。

「いーや身長的に見りゃ俺と1番合うだろうよ。の身長は167cm
 だからな。カップルは10cm差が1番バランス良いって言われてるんだぜ,
 近藤さん」
「むっ。そっそうなのか?トシ?」
(ううっ…わたし身長が高いこと気にしてるのに!)

だって山崎さんは169cmなんだよ…わたしとあまり違わないんだよ…はうう。
にしても土方さんはどうしてわたしの身長を正確に知ってるの!?
ていうか『10cm差が1番良い』ってどこから仕入れた情報ですか,副長?!

「年齢的なバランスだと1番合うのは俺でさァ,オッサン予備軍共。『姉女房は
 倉が建つ』って昔から言われてるでしょ」
「ふっ。その諺はあくまで夫側の利益だけを追求しているものだと気付かないの
 かね,沖田君。君は結局君の幸せは考えていないのだよ。でも僕は違う。
 僕ならば…」
「知ってるか伊東。くどい男は女から1番嫌われるんだぜ。男は背中ですべてを
 語るもんだ」
「あの…ちょっと…」

わたしの話のはずなのに,どんどんわたしの手から離れていっている気がする…
だいたい「山崎さんがいい」って最初に言ったのになんなの,この人たち!?
わたしは口を挟もうとしたけれど…やはりというか,きっちりスルーされた。

「土方君こそどこぞの映画に出た科白をあたかも自分の科白のように言うのは
 どうかと思うが。それに君はさっき身長的には自分と1番合うと言っていた
 が…僕の身長は君とほぼ同じだから,それは君だけの利点にはならないよ」
「んだとコラ…いちいちムカつくこと言ってんじゃねーぞ,伊東」
「いちいちムカつくことを言ってんのはテメェだ土方このヤロー。身長がどーの
 こーのって別に大した問題じゃねーだろうがよォ。なんならその頭吹っ飛ばし
 て身長低くしてやりやすぜィ」
「総悟!この近距離でバズーカはやばいから!トシ本当に死んじゃうから!」

本格的な取っ組み合いを始めた面々を横目に,朱美さんが口を開いた。

「まあなんにしろ山崎さんはないんじゃないの,」
「あ,朱美さん!?」

ぎょっとして彼女をみつめると,徳子さんもその横でうんうんと頷いていた。

「山崎さんはびっくりするくらい地味だものねえ。監察方としてはその方が良い
 んだろうけど」
「と,徳子さんまで…!」
「山崎さんって不幸オーラが出てるんだよね,なんとなく。なにかにつけていじ
 られるし」
「あ,彩ちゃん~~!?」

そりゃあ確かに山崎さんは皆からいじられているけどさ。
でも不幸オーラは出てない(はず)よ!!
それに…山崎さんには山崎さんだけの良い所ってのがあるわけで。
わたしはそこに惚れているわけで。

「でっでも!わたしは…っ」
「そーだそーだ!いくらなんでもザキはないよ,ザキは!地味だし無個性だし
 地味だし」

近藤さんがわたしの言葉を遮り,続けざまに土方さん,沖田さん,伊東さんが口を
出した。

「ミントンくれェしか特徴のねェ野郎だぞ。つまらねェ付き合いになること間違
 いねーな」
「ああいうSだかMだかわかんねー奴が1番マニアックな趣味を持ってたりする
 んでさァ」
「彼は優秀な隠密だが,恋人としては退屈極まりない男だよ。何の面白みもない
 男だよ」

真選組幹部4人と女中3人が『打ち合わせでもしたのか』ってくらい息ぴったり
に頷いた。

「「「「「「「あれはないよね~」」」」」」」



―――ぶっちん。



「もう…ほっといてください!!!」

わたしの中で堪忍袋の緒が派手な音を立ててぶち切れた。

「地味でも良いんです!ていうか地味じゃありません!!山崎さんは謙虚で真面
 目なんです!!存在感薄いなんてこともありません!わたしの中では1番存在
 感あります!むしろ1番星です!!失礼なことばかり言わないでください!!
 わたしは…」

すぅっと息を吸い込んで――堂々宣言。

「わたしは山崎さんがこの世で1番好きなんです!!」


「「「「…」」」」
「「「…」」」

興奮に任せて怒鳴り散らしたわたしに,2×7=14個の目が集中する。
皆一様に目を丸くしているのを見て,わたしはちょっとすっきりした。
でも清々したのも束の間――

「……ってはこう言ってるよ~山崎さん?」
「…え゛?」

彩ちゃんの科白にピシリと全身が凍りついた。

(まままま,まさか!?)

近藤さん,土方さん,沖田さん,伊東さんの4人の後ろから姿を現したのは…!
す,姿を現したのは……!!!!

「…えっと」

ぽりぽりと顎を指でかきながら――わたしの1番星が登場した。

「先日の監査報告を局長に提出したくて。んで,こっちに皆が集まってるって
 聞いて…来たんだけど…あれ?」
「…」

…こちとら色々考えてたのに。
いつかはちゃんと告白するつもりで…色々と考えていたのに!
どうせならロマンチックな場所で,ロマンチックな言葉で告白しようと思ってた
のに!!
夕日の沈む砂浜とか,夜景の綺麗な丘とか,花火上がる夏祭とか…ベタだけど!
『好きです』?
『愛してます』?
いやそれはちょっと重いからやっぱり『好きです』で。
ちょっとオプションつけて『好きです。わたしと付き合ってください』が定番で
良いかな。

…なんて寝る前に布団の中で悶々と考えちゃったりしてさ。
あーそうですよ隠れ乙女なんですよ,わたしは!!!
色々考えてたのに……考えてたのに!!!!

「あのぉ…ちゃん?」

1番星は首を傾げてわたしの顔を覗きこんで来た。

「~~~~~~っっっ」

こんなロマンの欠片もないシチュエーションで思いの丈をぶちまける元凶となっ
た4人の方を,わたしはギンッと睨み付けた。

「あんた達のせいなんだからね!!!!!」

わたしのありったけの怒声が庭に響き渡り,北風に揺れる洗濯物たちをさらに
震え上がらせた。



+++++++++++++++++++++++



「…うわわっ」
「はい,俺の勝ち」

ぽかぽか暖かい陽気の川辺で,わたしは山崎さんとミントンをしている。
前から時々一緒にすることがあったとはいえ,わたしは山崎さんより大分弱い。
少しは手加減してくれても良いのに,彼は容赦無くジャンピングスマッシュだの
リバースカットだのを次々と決めてくる。
…こっそり陰で練習しているというのにわたしはまだ1回も勝てたことがない。
悔しくてラケットで彼の横っ腹をつんつんと突いた。

「ちょっ!くすぐったいから!」
「だって…いっぱい練習してるのに」
「まだまだだね」

どこぞのテニス漫画の決め科白をいけしゃあしゃあと言ってのける山崎さん。
なんていうか…思っていたよりも山崎さんはキツイ人だってことが最近わかった。
基本的には優しいんだけど,たまに怖いことを事も無げに言ってのける。
でもよくよく考えてみれば曲者ぞろいの真選組で長年働く監察なんだから。
ただひたすらに優しい人ってことは…うん,有り得ない。
それでもちょっと納得いかなくて『前はただひたすらに優しかったのに』って
ぼやいたら,『そりゃ下心があったからね』って当然のように返された。

「もう…何様なんだか」

思わずわたしがぼそっと呟くと,

「『何様』って,そりゃ…」

山崎さんはにーーっこりと笑った。

「が皆の前で告ってくれやがったせいで,前よりも上司からのいびりが
 一層酷くなった可哀想な彼氏様,じゃない?」
「…っ」

――ずるい。
こんなのずるい。
愛を込めて暴言を吐くなんて,ずるいよ。
怒れば良いのか照れれば良いのかわかんないじゃないの。

「…」

黙り込んでいたら,不意に手をぎゅっと握り締められてハッとした。
顔を上げると,先程と同じく和やかに笑っている山崎さんが,

「まァどんなにいびられたって手放すつもりはこれっぽっちも無いけどね」

えらく挑戦的な口調でそう言い切って,握ったわたしの手の甲に唇を落とした。

「!!!」

――や,やっぱりずるい!!!
こんなことさらりとやってのけられたら,動揺しまくるわたしがバカみたいじゃ
ないか!
真っ赤になったわたしの顔を見て『可哀想な彼氏様』は実に楽しそうに笑う。
どっちかというとわたしの方が『可哀想な彼女様』な気がするんですけど!?
…なんだかとっても悔しいんだけれど。
彼が笑ってくれるならなんでも良いかな,て。
そう思っちゃうわたしはやっぱりバカなのかもしれない。

晴れ渡った空の下――にこにこ笑顔の彼につられて,わたしもへらっと笑って
しまった。




「あ゛あ゛!手にチューしたぞ,ザキの野郎ォォ!!ザキのくせにムラムラして
 るよォォ!!」
「ちょっとバズーカ撃っても良いですかねィ,土方さん?」
「ぶっ放せ,総悟。俺が許す。ちゃんと狙えよ」
「というか山崎君,僕達に気付いていないか?これ見よがしにこちらを見ている
 気がするんだが…」

……(にやり)。

「「「「あいつ!!!!!」」」」



--------------------------------fin.



2009/01/06 up...
初・山崎夢。彼のような『縁の下の力持ち』な男は好きです。