未来予想図
ミルクの匂いがして目が覚めた。
「あれ…」
「おう。起きた?」
瞼を開けてすぐに目に入ったのは,サーモンピンクの小さな頭。
そしてその向こう側で片肘ついてる銀髪の彼。
「うん。神楽ちゃん,いつの間に…?」
「知らね。いつの間にか俺らの間にいたよ,こんちくしょー」
彼はぼやきながら神楽ちゃんの頭を指先で小突いた。
「とりあえず服着ててよかったよなァ,俺ら。子供の情操教育的によくないからね,そういう現場を
目にするのは」
「うん…否定はしないけど(なんかヤだな)」
胸にわいた生暖かい気持ちを咳払いでもみ消し,わたしは神楽ちゃんの頭を撫でた。
「きっと時々寂しくなっちゃうんだろうね。普段元気いっぱいに振る舞ってても,まだまだ甘えたい
お年頃だもん」
「ったく…ガキはガキらしく揺りかごにでも寝てりゃァいいんだよ。なんでよりによってわざわざ
間に入ってくんだよ」
「…ここに揺りかごは無いよ,銀時」
そんなわたしのツッコミをスルーして,彼は神楽ちゃんの頭をぐりぐりと押さえ込む。
「こらーどきなさい,神楽。そこは俺のポジションだから。プライベート空間だから。俺専用の場所
だから」
「ん~うるさいネ。死ねヨ…このうすらハゲが」
「誰がうすらハゲだコラァ!金には不自由してもな,毛髪量に不自由したことはまだ無」
「銀時…ただの寝言だよ,寝言」
悪気はない(と思う)神楽ちゃんの寝言にムキになる彼を宥める――銀時だって充分子供だよ。
彼はそれからしばらくの間ぶちぶち文句を言い続けていた。
けれどもふと黙り込むと,じっと考えるように瞼をおろした。
そして,
「あ~…でもよォ,」
「ん?」
閉じていた目を開いて,銀時は小さく笑った。
「こういうのもいいかも。たまには」
「…え?」
彼が唐突に発言をひるがえしたのに驚いて,わたしは目を瞬かせた。
「俺,こういうの経験ないから」
銀時はそう言いながら,神楽ちゃんの頭を優しく撫でる。
「なんっつーか…『親子』みたいな」
「銀時…」
「いいな。こういうの」
「…」
ひどく柔らかな目で微笑む銀時を見ていると,どうしてだかわたしは泣きそうになった。
頭を撫でられている神楽ちゃんは,気持ち良さそうに寝息をたてている。
「なァ…」
「なに?」
「いつか,さ…俺とお前の…」
そこで言葉が途切れる。
これほどまでに優しい沈黙を わたしは知らない。
「…なんでもね」
「…そう?」
「なに笑ってんだよ」
「んーん。別に?」
だって…わかっちゃったよ。最後まで言われなくても。
わたしはにっこり笑ってみせた。
「何人でもまかせてね。安産型だから」
「おまっ…!そーゆーことを女のコが言っちゃいけません!」
「でも多すぎるとあれね。銀時とわたしの間にそれだけの人数が眠るわけだから…」
「…遠くなるな」
それはちょっといただけねェわ,と銀時はぼやいた。そして,
「とにもかくにもまずは1人頼むわ。『川の字』がしてェし。あとはおいおい決めようぜ」
銀時がすごく真面目な顔でそう言って――わたしはまたもや泣きそうになった。
…嬉しかった。
彼の描く未来予想図の中に,当然のようにわたしがいることが。
「…ふつつかものですがよろしくお願いします」
「…おー」
お互いにはにかんでいるわたし達2人の間で――ピンクの髪の女の子は頬を染めて笑っていた。
…プロポーズの現場に居合わせちゃったアル。
2009/08/15 up...
四代目・拍手お礼夢その3。