恋人はミイラ男
<近藤さんがお見合いをして結婚することになったらしい
お相手は猩猩星の第三王女・バブルス姫(ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ)>
という大事件(だよねどう聞いても)が女中達を震撼させたのは,ちょっと前の話。
万事屋さんやお妙姐さんの尽力で,結婚式はめでたく破談。
今夜は近藤さんが結婚しなかったお祝いの飲み会が開かれている。
…結婚式がぶち壊しになったから祝杯,だなんて聞いたことないけど。
でも本当によかった。
近藤さんがゴリラさんのお婿さんにならずに済んで。
「土方さん」
「おー…」
この人も顔には出さないけどすっごく嬉しいんだろうな。
どんちゃん騒ぎの部屋をこっそり抜け出し,縁側でまったり煙草を吸っている我らが鬼副長。
わたしは一声呼びかけて,その隣に座った。
「よかったですね。近藤さん,結婚しなくて」
「あーそうだな」
ふがふがと包帯の隙間から声が漏れてくる…煙草の煙もなんだか不自然な形をしている。
柳生家で暴れまくった結果,今の土方さんの顔は包帯で見事にぐるぐる巻になっている。
わたしは堪えきれずにくすくす笑ってしまった。
「土方さん,なんだか可愛いですね」
「あ゛?」
「ミイラ男」
「…仕方ねェだろ」
「らくがきしても良いですか?」
「良いわけあるか」
「え~」
「いや『え~』じゃねェよ」
せっかく赤のマジックでキスマーク描こうと思ったのに。
それはともかく。
「もうこれから先ずっとミイラ男でいません?」
「は?なんでだ」
「え…だって」
不思議そうに(包帯の隙間から)目を瞬かせる土方さん。
…わかってないなあ,もう。
「だってそうしていれば,女のコからキャアキャア言われないですし」
あ,別の意味でキャアキャア言われたらしいけど(お妙姐さんから聞いた)。
ミイラ男状態の土方さんは,スナックすまいるでものすごく不評だったとかなんとか。
物を投げつけられたとかなんとか。
わたしの言葉に土方さんは「ふーん」と頷いて,ふがっと笑った(多分にやっと笑ったんだろうな)。
「妬いてんのか」
「ダメですか?」
「全然」
土方さんは機嫌よさそうに(くどいけど包帯の隙間から)目を細めて,包帯の上から頬をさすった。
「あー早く包帯とりてェなあ」
「…なんでですか。そんなにキャアキャア言われたいんですか」
「そうだな」
「!」
眉間にしわの寄ったわたしの額を,副長は指先で軽くついた。
「妬いてるお前,可愛いからな」
「!!」
こっ…この人は~~~~~!!!!
「イテッ」
思わず引っ叩いたら,土方さんはちっとも痛くなさそうに小さく叫んだ。
「おい。痛ェだろうが」
「(痛くないくせに!)もう2度と妬きませんから!勝手にキャアキャア言われてろ,バカ!」
「なに怒ってんだよ。褒めたんだろうが」
「う,うるさい!ミイラ男はミイラ男らしくピラミッドの奥深くでグースカ寝てれば!」
「あーわかったわかった。そんな怒るなって」
「このタイミングで頭撫でないでください!」
子ども扱いされてるみたいですごくやだ!
わたしが力一杯抗議しても,土方さんはなぜか嬉しそうに笑っていた。
悔しいから今度包帯巻くの手伝う時は高杉晋助的な巻き方にしてやろう,と。
…そう密かに誓った騒がしい夜。
照れ隠しも可愛いなあ,と内心思ってたり。
2010/1/18 up...
六代目・拍手お礼夢その1。