やわらかな痛み
「痛そうだね」
「あー…ホント痛ェよ」
「…うん」
久しぶりに(そして唐突に)家にやって来た彼は,なぜか真選組の制服を着ていた。
しかも満身創痍な血まみれボロボロの状態で。
玄関を開けてその姿を見た時には,腰を抜かしそうになるくらい驚いたけれど…
彼の手当てをしながら,事の次第を聞いている内にわたしは落ち着きを取り戻した。
「あ。一応言っておくけど,今言ったことはオフレコでよろしくな。あいつらにとっちゃ命取りだろう
からな」
「うん,わかってる。ふふ…やっぱり仲良いよね,なんだかんだで」
「…仲良くねェよ。いずれゆすりのネタにすんだから黙っとけ,ってだけだ」
「はいはい」
ほんっとに素直じゃないんだからなあ,もう。
わたしは笑いを堪えながら頷いた。でも――
「なんだか元気ないね,銀時」
「…そう?」
「うん」
ここに来た時はそうでもなかったけれど,今はなんだかしょんぼりしている。
というか,話をしている内に,だんだん元気がなくなっていったような気がする。
銀時はちらりとわたしの目を見て,包帯の巻かれた頭をぽりぽり掻いて俯いた。
「別にな,元気がないわけじゃねェのよ?」
「そう?」
「いやホントに。落ち込んでるわけじゃねェんだよ」
「うん」
「たださァ…」
そこで言葉を選ぶように,彼は一旦口をつぐんだ。そして――
「侍としてのけじめとか。仲間だからこその引導とか。ああいうの,久々に見たなぁって」
「…うん」
「ちょっとさ,昔を思い出しちゃったわけ」
「…そっか」
攘夷戦争の頃…。
わたしはその時のことをよく知らないけれど。
でも――きっと綺麗ごとではすまない現実が,いくつもあったはずだ。
いいことも。そうでないことも。
たくさんあったはずだ。
「だからさ,元気がないわけじゃねェんだ」
「うん…わかった」
両手で銀時の両頬を押さえて,わたしの方を向かせると,彼はぼんやりとした眼差しをしていた。
「銀時は,今ここにいる」
「…ん」
「わたしもここにいる」
みんな ここにいる。
あなたの傍に。
「おかえりなさい,銀時。ありがとう…帰ってきてくれて」
いつだって いつまででも 待っているから。
「ありがとう」
「ばーか」
そりゃこっちの台詞。
片眉をあげて照れくさそうに笑った銀時に,わたしはぎゅっと抱きついた。
彼の心が『今』に帰ってきてくれたことに――
――わたしはもう一度「おかえり」と言った。
仲間だからこそ斬らなければならない。いつか,そういう日が来るかもしれない。
2010/1/18 up...
六代目・拍手お礼夢その2。