損な性分,お得な子



<沖田隊長に檄をとばしてあげてください>
…と,彼の部下である個性派メガネ君に頼まれ。
 
「沖田さん,お茶をお持ちしましたよ」

数日間その部屋に篭りっぱなしの彼を呼んだ。 
書類に埋もれてしまいそうな彼は,机に突っ伏していたけれど,わたしの声に顔をあげた。

「…なんでィ」
「お茶をお持ちしました」
「あー…」

沖田さんは隈のできた目の下をぐしぐしとこすって頷いた。どうやら本当に疲れているらしい。
わたしは彼の隣に座って,書類の横にお茶を置いた。

「ちょっと休んだらどうですか。ほら,お菓子もありますよ」

いい子いい子と頭を撫でると,沖田さんは複雑そうな表情でわたしを見た。
彼は「子ども扱いすんな」とよく腹を立てる(だって沖田さん可愛いんだもの)。
でも今は怒る気力も無いらしく,黙ったままポテッと膝の上に頭をのせて横になった。
…やっぱり可愛い。
わたしは膝にのってる彼の髪を梳いた。

「ずいぶん苦労してるみたい」
「あー…死ぬ」
「神山さんから聞きましたよ」
「あいつマジ有り得ねェ。仮にも機密事項をなんだと思ってんだ…つーか上司をなんだと思ってんだ」
「それ,あなたにだけは言われたくないと思いますよ」

自分の副長への態度を振り返りなさい,もう。

「それで…結局その女の子には真実を話さず仕舞いですって?」
「ん。まァな(結局気付いちまったみてェだけど)」
「それじゃ沖田さん,恨まれっぱなしじゃないですか」
「べつに。恨まれる相手が1人増えようと2人増えようと今更変わんねェよ」
「でも…わたしはなんだか釈然としない。沖田さんは何も悪くないのに」

確かに沖田さんはたくさんの人を斬ってきた。これからも…きっとそうだろう。
それでも――わたしには彼が悪いとはどうしても思えない。
沖田さんは仰向けになると,わたしの顔を見上げてニヤッと笑った。
 
「こういう性分なんでィ」
「ふふ。損な性分ねぇ」

思わずわたしも笑ってしまった。それからそっと彼の額に手のひらを置いた。
 
「でもそういう損な人,わたしは嫌いじゃないですよ」
「…」
「…ん?」
 
一体どうしたというのか,沖田さんはぶすっとした顔でそっぽを向いてしまった。
なにか気に障ることを言ってしまったらしい。
彼は気分によってコロコロ表情をかえる…気まぐれな猫みたい(そういうとこも可愛いけど)。

「なに?わたし,イヤなこと言いました?」
「…べつに」

すっかりへそを曲げている(らしい)彼の頬をぷにぷにと突付いてみる。
沖田さんはくすぐったそうに首をすくめ,じとっとした目でこちらを見上げてきた。


「…『嫌いじゃない』だけ?」


…
……
………可愛いんだから。
ホント,ずるい。

「間違えました」

屈み込んで沖田さんの顔を間近に覗き込み,笑った。

「そういう損な人,大好きですよ」

垂れ下がったわたしの髪が,沖田さんの頬にくっつく。
彼はその髪の先をきゅっと握った。
感触が気持ち良いのか,繰り返しきゅっきゅっと握り締めて,

「…全然損じゃねェや」

花が零れるようににっこり笑った。
…可愛いんだから,もう。


元はと言えば…檄をとばしにきたはずなのに。
どうしても彼を甘やかしてしまう
ダメなわたし。



この直後,神山君が入って来て大変なことになったとかならなかったとか(神山君が)。


2010/1/18 up...
六代目・拍手お礼夢その3。