I can be your HERO.


さんへ


拝啓。

君が他県の大学へ進学してしまってから丁度1年が経ちました。
その後お元気でお過ごしでしょうか。

さんの誠実な人柄なら,きっとどこに行ってもすぐに溶け込めると思いますが,新しい土地の大学にはもう慣れましたか。
今回,こうして筆をとったのには理由があります。

通学路沿いの廃寺にありました一本桜が,今年も満開になりました。
君は憶えているでしょうか。
きっと憶えてくれていると思います。

放課後にあの廃寺で,俺はよく1人でバドミントンの練習をしていました。
廃寺にはそれほど背の高くない桜が一本生えていて,あの日はちょうど花が満開でした。

いつも通りひとりで練習をしていた時,俺は突然激しい頭痛に襲われ,蹲ってしまいました。
蜂に頭を刺されてしまったのです。
幸いスズメバチやアシナガバチではなく,ミツバチでしたが,命を賭けた一撃とあって(ミツバチは一回刺したら
死んでしまうらしいです)それはもう凄まじい痛みでした。
未だかつて感じたことのない激痛で「このまま俺は死ぬのか」と本気で思いました。
そんな時,さんは颯爽と俺の前に現れ,

「ジミー君どうしたの!?」

と叫びました。
あの時は「ジミーじゃねーよ」と突っ込む気力もありませんでした。
思考が回らない中なんとか蜂に刺された旨を伝えると,君はすぐさま俺を背負ってくれて,

「巣が近くにあるのかも。ここにいるとまた刺されるかもしれないから」

と言っていましたね。
軽々と俺を背負って,早足でさんは廃寺を出ました(余計なお世話だろうけど君は運動部に入った方が良かったんじゃ
ないかな)。
歩道に出ると,俺を背中から降ろして,俺の頭にドボドボとペットボトルの水をかけて,刺されたところを洗い流して
くれました。
それからすぐにタクシーを捕まえて,皮膚科まで連れて行ってくれました。
あの時は頭の痛みでいっぱいいっぱいでしたが,後で思い返して,君がどんなに冷静かつ剛胆か,感動すら覚えました。
治療の後に「迷惑かけてごめん」と謝った俺に,君は「困った時はお互い様だよ」と晴れやかに笑ってくれました。

あの日から,さんは俺のヒーローになりました。

あの日を境に,君と俺は少しばかりではありますが,前よりも話すようになりました。
他の同級生にからかわれるのが嫌で,頻繁に話しかけるのを躊躇っていましたが,本当はもっと君と話したかったな。

卒業式の数週間前に,さんが他県の大学に行くと風の噂で知って,すごくショックでした。
ヘタレな俺は卒業式に,「一緒に写真撮って」と言うのが精一杯でした。
君はやはり晴れやかに笑って,肩を組んで写真を撮ってくれましたね。
あれには実を言うとドキドキしていました。
1年過ぎた今でも,その時のドキドキは続いています。

どうやら俺は,さんのことが好きだったみたいです。
自分でもあまり気付いていなかったのですが。
とても好きでした。

この気持ちに気付いてしまった以上,いてもたってもいられなくなって,こうして筆をとりました。
君に会いたいです。
すごく会いたいです。

来月のクラス会には出席しますか?
どうか出席してください。
ぜひそこで話をしましょう。

会えるのを心待ちにしつつ…それでは,また。




敬具  山崎退


これからは,僕が君のヒーローになりたいです。



2016/04/01 up...
十四代目・拍手お礼夢その1。共通テーマ『P.S.アイラブユー』(谷川史子先生の同名漫画より)。