Don't cry anymore, honey.
先生へ
普段手紙なんて全然書かないんで,何を書いて良いかわかりません。
どうも。坂田銀八です。
締まりの無い書き出しでスミマセン。
先生が他校へ転任になるって聞いて,慌てて手紙を書いていたりします。
離任式でまた顔を合わせるんですけど,一刻も早く言っておきたくてですね。
善は急げっつーか,勢いがある内にっつーか,そんな感じです。
いきなりですけど,ちょいと昔の話をします。
3年前の桜が満開の頃に,先生は新卒採用で銀魂高校に着任しました。
そんで,俺は先生の指導教官に任命されました。
任じられた時は,大学卒業したての先生の指導なんて,面倒くせェとぶっちゃけ思いました。
なので,先生に年間授業計画書を書くよう指示した時も「適当で大丈夫だよ」と俺は鼻くそほじってました。
でも,先生はそんな俺を,
「真面目に指導してください!」
と叱りつけました。
あん時は思わず椅子から転がり落ちてしまいました。
いや~あん時の先生は,マジで怖かったです。
キッと目をつり上げて,めっちゃ真剣に先生は俺に怒っていましたね。
ホントぶっちゃけた話「苦手なタイプの女だな」と思いました。
マジでスミマセン。
けど,そんな先生に対する苦手意識は,「あの日」を境に消えました。
先生が銀魂高校に着任してから半年後,とある生徒が先生のことを,
「真面目過ぎて怖い。授業受けるのやだ」
と言っているのを,先生は偶然聞いてしまいましたね。
そして,その日の放課後,先生は遅くまで図書室で翌日の授業の計画を練っていました。
でも,ふとノートから顔を上げた瞬間,先生はポロリと涙を零してしまいました。
スミマセン,今まで黙ってたけど実は見てました。
ホントはすぐに出て行って,先生を励ましたり慰めたりしたかったけど。
先生は俺に涙を見られるのはむしろ嫌なんじゃないかと思って。
なにしろほぼ毎日「真面目にやってください!」と先生から叱られてるし。
なので,今の今まで黙ってました。
だからと言って,何もしないで放っておくことも出来ませんでした。
俺は少し時間を置いてから,先生に飲み物をさりげなく持って行きました。
普段は絶対に人には分けてあげない,苺オレを。
とっておきの苺オレを先生に出して,
「おつかれさん。あんまり根を詰めねぇようにな」
としか俺には言えませんでした。
先生は若干まだ赤い目を丸くして,
「ありがとうございます」
と笑ってくれました。
思えば,先生に笑顔を向けてもらったのは,あれが初めてでした。
んで,単純ですが,あの瞬間に俺はあなたにフォーリンラブしたわけです。
「フォーリンラブ」って古いっすかね。
じゃあなに。「胸キュン」?「くびったけ」?「ぞっこん」?いやいやそれはそれで古いだろ。
とにかくそういうことです。
男なんて単純なもんですね。
辛い時も弱音を吐かず,胸を張って歩いてゆく,でも時々影で泣いてしまう…そんな先生に,俺は恋をしました。
このまま縁が切れちまうのは,はっきり言って嫌です。
だから,離任式の後にデートしてください。
金欠だけど,ちゃんと奢ります。
飲み過ぎてぐでんぐでんになったりしません。
たぶん先生の方が酒強いけど,俺は頑張ります。
ホント頑張ります。
どうぞ,どうぞヨロシクお願いします。
そういうわけで…とりあえず離任式でお会いしましょう。
んじゃ,また。
3年Z組担任 坂田銀八
涙が『女の武器』なんて ねえ いつの話?
2016/04/01 up...
十四代目・拍手お礼夢その2。共通テーマ『P.S.アイラブユー』(谷川史子先生の同名漫画より)。