目隠し鬼さん



女中業務の休憩中。居間でお茶をすすりつつ,ほっと一息をついて。

「前から気になってたんですけど…」
「なんでィ」

横でごろごろしている沖田さんに,わたしは話しかけた。
沖田さんは畳の上に寝転んで,頭をお座布団にのせて。思い切りリラックスモードだ。
というか,今って巡回の時間じゃなかったっけ?わたしの思い違い?
…それはともかく。

「沖田さんのそのアイマスクって,ご自分で買ったんですか?」

まさに今彼の目を覆っている赤いそれ(ぱっちりお目メがついている)を,わたしはぴっと指差した。
沖田さんはアイマスクを親指でぐいっと持ち上げると,こっちをちらりと見上げてきた。

「いや,こりゃ姉上が見立ててくれたんでさァ」
「えっ。そ,そうなんですか?」

あんなにも優しくておしとやかそうな人が?
こんなにもシュールなアイマスクを?
なんだかすごく意外。でも「それでこそ沖田さんの姉上様」,て気もする。

「15ん時の誕生日に10枚いっぺんに送ってきてくれて」
「へ~え…」

同じデザインのアイマスクを10枚セットでプレゼント,って…。
さすが沖田さんのお姉様。やることが奇抜だ。
でもシュールなデザインはさておき,アイマスクの生地はさらさらのふかふかで。
すごく気持ちが良さそうだ。

「それ付けたらよく眠れそうですね」
「付けてみるかィ?」
「えっ良いんですか?」
「おー」
「やった!ありがとうございます!」

まさか貸してもらえるとは思わなかった(ホントは少ーし期待してた)(でもお姉様からいただいた
物なら無理かなって)。
沖田さんの手からアイマスクを受け取って,いそいそと目につけて寝転がった。

「あ…気持ちいい」
「だろ?」

視界がほのかな薄闇で満たされて。瞼が柔らかな感触に包まれて。
さっきまで沖田さんがつけていたせいか,まだほんのり温もりが残っている。

「眠くなりますねぇ…」
「…ふーん」
(…?)

なんだか含みのある相槌だ。意味ありげな声音が頭の隅にちょっとひっかかった。
どうかしたんですか,とわたしはアイマスクを外そうとした…でも,

(!)

両の手首をぎゅって掴まれてしまい,それは叶わなかった。

「なっなに…」

突然のことに動転してしまい,声が惑った。
視界は閉ざされたままだから,一体何が起こっているのかわからない。
でも身体の上に誰かが…1人しか考えられないけど,誰かいる。

「沖田さん?」
「…」

何も言葉は返って来ない。
代わりに,


   ふぅーーーっ


「っひゃあああ!?」

耳!
耳に生暖かい空気!ていうか息!!
耳に息吹き掛けられた(むしろ吹き込まれた)!

「なななな!?」
「ふーん。耳弱いんだねィ」

なに恥ずかしいこと楽しそうに呟いてるんだ,この人は!
ぱっと手首を離されて,身体の上の重みもなくなった。わたしはすぐさま起き上がってアイマスクを
取った。

「なにするんですか!?」
「男の前で簡単に寝るもんじゃねェや」

しれっと言ったよこの人…まるでわたしが悪いとでも言いたげに!

「そ,そんなの…!」
「1枚くれてやらァ,それ」
「…へ?」

隊長の意外過ぎる言葉に,わたしはぴたりと動きを止めてしまった。
今,なんて?「1枚くれてやる」って…アイマスクを?
(大事なものなんじゃないの?)
なんでわたしにくれるの?
ぽかんとしてしまったわたしの前で,沖田さんはいたずらっぽく笑った。

「姉上から貰ったもんを恵んでやるんでィ。大事に使いなせェ」
「え?」
「つーわけで,おそろいな。明日からそれで一緒に昼寝しやしょう」
「えっ?」
「さ~てと,と。土方でもからかいに行くかねィ」
「…」

すたすたすた………ぱたん。


「…
 ……
 ………え?」



本当は口にしたかったけど。


2009/11/14 up...
五代目・拍手お礼夢その3。