猫パンチ



「はい,猫パンチ」

桃色のインクをつけた子猫の手(前足)を葉書にぺたぺたと押していく。

「もういっちょ猫パンチ」

わたしの腕に抱かれている子猫ちゃんは,手(前足)を葉書に押し付けられてもそれほど嫌そう
にはしていない。ただ不思議そうに目を丸くしている。
うん,一番おとなしいコを選んで正解だった。

「猫パンチ,猫パンチ,猫パンチ…猫パンチ」
「君…さっきから何をやっているんだい?」
「あれ?伊東さん」

いつの間にやらわたしの背後に伊東さんが立っていた。
興味深そうに…というよりむしろ不審そうに,伊東さんはわたしと子猫と葉書とを交互に見比べた。

「田舎の家族や友だちに近況報告の葉書を出そうと思って。せっかくだからなんか面白いのを送り
 たいな~って。『じゃあ屯所の猫の肉球判子とか良いかも』という結論に」
「…君はいつも僕の予想の斜め上を行くよ」

ひきつった笑みを浮かべて,伊東さんは葉書を1枚手にとった。
葉書には桃色の肉球スタンプが押してある。
結構良いアイディアだと思ったんだけどなあ。

「大丈夫ですよ。このインクね,皮膚に害を与えない特殊な物なんですから。赤ちゃんの手のひら
 にも使えるんですよ!」
「いやそういうことは聞いていないが」

呆れたように半眼になる伊東さんに,わたしは子猫ちゃんをひょいと向けた。

「ほら,伊東さんに肉球見せてあげて…って,あーーーーーーーーーーー!!!!!!」
「ぅわっ!!」

にゃーん。
甘えた声を出して子猫が伊東さんにじゃれついた。
このコはおとなしいけど,人一倍(猫一倍)伊東さん大好きっ子で。
子猫ちゃんとしてはいつもどおり飛びついただけなんだけども。
その手(しつこいけど前足)には桃色のインクがついているわけで。

「あわわわわ」
「…」

伊東さんの頬や額に,見事なほどくっきりと肉球スタンプが押された。
しかも複数。そのうえ色がよりにもよって桃色。
うわっ可愛い――ってそんなこと言ってる場合じゃない!!!

「ごっごめんなさいごめんなさい!!!」
「い,いや大丈夫だ…」
「すっすぐにタオル持ってきますから!!」
「!待てっ。君は慌てるとすぐに転,」
「ひゃっ!」

案の定わたしはべシャッと転んだ。
うう…痛い。

「慌てなくていいから。落ち着いて持ってきてくれ」
「は,はい…ごめんなさい」

打った鼻をさすりながら,わたしは今度こそタオルを取りに走った。
ただし転ばないように気をつけて。



「…」
「…にゃ?」
「…本当に予想の斜め上を行くコだ」
「にゃ~」
「…君に似ているな」
「うにゃっ」




タオルを取りに行っている間に部屋へ篠原君が入って来ちゃって,
尊敬する先生のお顔に猫の足型がついているのを見てフリーズ。



2009/01/24 up...
初代・拍手お礼夢その2。