君はペット
「ぐぅ~…」
「…何をしているんだ,君」
新年会(in真選組屯所)の夜。
宴の盛り上がりを横目に,酔い覚ましをしようと縁側に出てみれば…
…壁にもたれかかるようにして某女中が座り込んでいた。
少しだけ赤くほてった頬に微笑を浮かべ,なんとも幸せそうに眠り込んでいる。
「起きなさい」
「う~ん…伊東さん?」
僕がその細い肩をゆすると,彼女は億劫そうに瞼を開き,とろんとした目でこちらを見上げてきた。
その危機感皆無の無防備さに思わず溜息が出る。
「早く起きなさい。女性がこんなところで眠ってはいけない」
「え~…男女差別反対っ」
「…これは男女差別とは言わない」
彼女は普段から変なことを口走るクセがある(『ネバーランドにはどうしたら行けますかね~』と
訊かれた時は正直どうしようかと思った)。
どうやらアルコールが入っていると,それがより酷くなるらしい。
何を思ったのか,彼女はこちらに向って両手を伸ばした。
「ん!」
「…?なんだい?」
彼女は差し伸べた両方の手のひらをひらひらと揺らす。
…意味がわからない。
僕の怪訝な表情など全く気にせず,彼女はとても無邪気な笑顔を浮かべ,
「ん!抱っこ!」
ぱしぱしと手のひらを鳴らした。
……って!!!???
「……はっ!?」
なん…なんだって!?
今何を言った,このコは?!
「ななななななにを言っているんだね,君」
「抱っこ!」
「だっ…!?」
「抱っこしてください!」
そんな「抱っこ抱っこ」と幼子のようなことを…ま,まったく。
僕はなんとか心を落ち着けて,冷静な表情をつくるように努めた。
「馬鹿なことを言うんじゃないよ」
「いやですー。抱っこしてくれなきゃ動きません」
「…なにを馬鹿な,」
重ねて注意をしようとしたその時,
「猫は抱っこできるのに,わたしは抱っこできないんですか?」
突然,彼女の声のトーンが下がった。
ついでにいうと声の温度も下がった気がする。
不審に思いその表情を見つめると,彼女は小さく口を尖らせていて…なぜか知らないが拗ねている
ようだ。
「…なんで猫と同列なんだ」
「…ずるい」
「は?」
「伊東さんに抱っこされる猫はずるい」
「…」
俯いた彼女の前髪を,柔らかな夜風がくすぐっていく。
「わたしも猫だったらよかったのに」
彼女の頭に生えた猫の耳が,しょんぼりと下がっているように見えた。
…もちろん錯覚だが。
「…おいで」
「!」
ぴん,と三角の耳が立った。
…繰り返すが,もちろん錯覚だ。
ぼくが手を広げると,彼女はなんの躊躇いもなく飛びついてきた。
酒の匂いと石鹸の匂いが混じった不思議な香りがする。
それは,大人と子供のちょうど中間にいる彼女にふさわしい香りのようにも思えた。
「…大きな猫だな」
「にゃん♪」
「…はあ」
尻尾が嬉しそうにぱたぱたと揺れる。
……重ね重ねになるが,当然錯覚だ。
にしても。
「通りがかったのが僕でよかった」
「ん~なんですか?」
「…なんでもないよ」
適当に応えながら,ひょいと抱えなおす。
まさかと思うが他の男にもこういうことをするのか。まさか。いやでもこのコなら有り得る。
愛想の良い猫なんて反則だろう。いろいろと。
「躾がいるね」
「…?」
「なんでもないよ…『』」
まあ,でも。
手のかかるコ程可愛いものだ。
猫も。
娘も。
頭をぽんぽんと撫でると,僕の猫は嬉しそうに目を細めた。
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2009/03/20 up...
二代目・拍手お礼夢その2。