We are BOYS.
「ちょっと待て」
「え?わたし?」
晴れた朝の爽やかな登校時間。学校の門をくぐろうとしたわたしに,『風紀委員・副委員長』の腕章を
付けたクラスメート=土方君が声をかけてきた。
(あー…今日から衣替えだから服装チェックしてるんだ。でも…)
…なぜに,わたし?
自分で言うのもなんだけど,素行は悪くない方だし(時々保健室でさぼったりもするけど),制服だって
そんなには着崩していない方だと思う。
なので,わたしは呼び止められた理由がわからず,首をひねって土方君を見た。
いつもより渋い表情をした土方君の前で,わたしはスカーフの先を摘んだ。
「どっか変?」
「スカート。短過ぎだろ」
「…そうだっけ?」
びしっと膝あたりを指さされ,わたしは反射的に下を向いた。
膝よりも上の位置で揺れるプリーツは,厳密に言うならば確かに校則違反だ。生徒手帳にも「女子の
スカートは膝下なんとかcm」(正確な数字は忘れた)って書いてあったと思う。
でも,そんな校則を守ってる女子なんて皆無だし。現にたった今校門をくぐった女生徒は,わたしよりも
さらに短いスカート丈だった。なのに,土方君はそちらには見向きもしない。
わたしはちょっとムッとして彼を睨んだ。
「…そんなに短くないっしょ?ていうか,冬服の時もこのくらいだったと思うんだけど」
「いーや,短い。そんな丈じゃ階段上る時に下にいる奴から見えるだろ」
「…土方君のエッチ」
「…!いやいや,違うぞ?あくまで一般論として俺は言ってるだけであって,つーかそもそも俺はお前を
心配してだな!」
慌てて弁解(だかなんだか)を言い募る土方君の背後から,欠伸まじりの呑気な声が聞こえてきた。
「土方さーん。なにやってんでィ」
「沖田君!」
奇天烈なアイマスクを額に付けたままのスチャラカ風紀委員に助けを求めるのもなんだけど,わたしは
彼に駆け寄った。寝ぼけ眼の沖田君の前でスカートを指差し,
「このスカート丈,どう?そんなに短い?」
「あー…その丈はアウトだねィ」
「ええっ?ホント!?」
「ほれ見ろ」
沖田君の台詞に,土方君は勝ち誇ったように口の端を上げた――
――のは,一瞬のことだった。
「あと3センチくらい短い方が良いでさァ。そしたら風ふいた時とか,もう完璧に…」
「テメェはそれでも風紀委員か!!!」
土方君の放った左ストレートを,沖田君は(こうなることを読んでいたとしか思えない)華麗なフット
ワークで避けた。
「なんでィ,土方。むっつりスケベのくせに真面目ぶってんじゃねェよ」
「え!…土方君ってむっつりなの?」
「むっつりじゃねェよ!!」
「いーや,筋金入りのむっつりだね」
「そ,そうなの??」
小馬鹿にしたように鼻を鳴らす沖田君を,わたしはまじまじと見た。「いや違うって!」と土方君の
声も聞こえては来るけれど。
わたしは土方君のことを今時珍しい硬派な人(『草食系』じゃなく『硬派』)(ここ重要)だと思って
いたので,正直かなりびっくりした。
驚いているわたしに,沖田君はさらに衝撃の事実を耳打ちした。
「『夏服のスカートは冬服のより生地が薄いから,日に透ける』って。この前よだれ垂らしてたぜ」
「よ,よだれ!?」
「よだれなんか垂らしてねェよ!」
土方君は怒鳴り声を上げながら,沖田君とわたしの間に割って入った。
が,わたしはその怒り心頭な横顔を冷めた目で見やった。
「よだれ垂らしたことは否定しても,言った内容は否定しないんだ?」
「………言ってねェよ」
なんなのだ,その間は。
「す,少なくともそんな言い方してねェからな!!『夏のスカートは冬のスカートより日に透けるもの
だな』くらいしか言ってねェ!!」
ほとんど同じじゃないか。
「ったく,土方さんは本当にしょうもねェな」
沖田君は長々と溜息をつき,大げさに肩をすくめた。
「つーわけで,あと3センチ。あんた足キレイなんだからスカート丈は短く,」
「するわけないでしょ!」
スカートの裾を引っ張ろうとした沖田君の手を,わたしは鞄で払いのけた。
それはもう電車の中で痴漢の手を払いのける時と同じく容赦なく。
「2人共最っ低!しばらくわたしに話しかけないでね!ていうか,近寄らないで!」
「「!!!」」
いかにも「ショック!」とでもいうように凝固した彼らに,わたしは鋭い視線を投げつけて背を向けた。
わたしはぷりぷり怒りながら,プリーツを翻しながら走った。
「あーホントだ。ちょっと透けてんな。土方さんの言う通りだねィ」
「だろ?透けてる上に丈も短かったら危ねェだろ。いろいろ」
「危ないのはあんた達の頭!!!!」
自分達の風紀をまずは取り締まれよ,エロ風紀委員共!!
思春期の女子に下ネタは禁物。
2011/9/10 up...
十代目・拍手お礼夢その2。