は遅れて飲み場にやってきた(姿見えた瞬間思わず目で追いかけちまった)。
1人でいる時にゃ色んな気持ちにちゃんと決着つけていて「大丈夫」だと思ってたっつーのに,
いざ本人を目にすっと心臓が口から飛び出そうなくれェに胸が騒いだ。
の視線がふと泳いで俺を捕らえた時は,動揺しすぎて手にしてたポテトチップスを見事に
砕いちまった。
なんなの俺超かっこ悪ィんですけど!?…あいつもそれ見てちょっと笑ってた気がする。
すぐに目ェそらしたけど。

その後,は普段から仲の良い花子の隣りに座った。
あの嬢ちゃんも大概ポーッとしてるからな…類は友を呼ぶってやつか?
まァは詐欺に引っ掛かることは無さそうだけど。

飲み会が始まってすぐに俺は色んな奴らから意味ありげな視線で見られたり,「どうよ?」と
ニヤニヤしながら訊かれたりした。
なんですかー別にどーでもいいでしょーが,他人の色恋なんて。
おばはんは噂話が好きだって言うけど,おっさんだって結構しつけぇ。
人間って奴ァ自分が色恋から縁遠くなると,他人の色恋が気になっちまうもんなのかねェ…?
俺は適当にあしらったけど,が俺の立場だったらたぶんスッゲー困っていたと思う。
あいつ,冷静な時はとことん冷静なくせに嘘がめちゃくちゃ下手だし。
俺のことを「子供っぽい」て笑うけど,お前だってそうだろって言いてェ。
だから質問攻めにあえば,あいつは『言わなくて良いこと』までぽろっと言っちまうだろう。

は花子とグラスを合わせると,いたって普通に飲み始めていた。
たぶんも花子には話したんだろーな……あの日のこと。
しばらくして何を思ったんだか総一郎君がと花子に話しかけに行くのが見えた。
一体何の話してんのか気になったけど,そっちばっか見てるわけにもいかねーから,俺はテーブルの
上のスナック菓子を落ち着きなく口に運び続けた。
もう1度の方に目をやった時,かちりと目が合った。
今度はそらさなかった。
というよりも,そらせなかった。
が,ある種の覚悟を決めた人間が見せる,真剣で一触即発な眼差しをしていたから。
俺は薄いベールのようなもんが,俺との間で波打ってるような錯覚を覚えた。


俺たちは,ちゃんと話さないといけねー。


俺もまた腹をくくった瞬間だった。



飲み会が終わった後,飲み場にいたメンバー全員が駅前広場に集まった――これはいつものことだ。
二次会に行く奴らはそんまま「おつかれ」と言いつつ流れていき,帰る奴は「じゃあまた」と
言いつつここで改札をくぐっていく。
ただし皆それなりに酒が入っちまってるから決断が遅い。
たいていは10分・15分くらいここでたむろって,それからやっとこさ動き出す。
今夜もそうだった。
辺りを見回すと,沖田が女に囲まれて余裕しゃくしゃくで笑っているのが見えた。
…なんであんなドS王子がもてはやされるんですかー?
あー世の中顔がすべてなわけね。あっそーですか。ふーん。
って納得できっか,ボケェェェ!!!!
思わず胸中でノリツッコミをいれると,それが聞こえたんじゃねーかと思えるようなタイミングで
奴はこっちを向いた。
俺が面食らっているのを見て沖田はニッと笑い,声を出さずに口だけを動かした。
最初は何を言ってんのかわかんなかったけど,4回目あたりでやっと理解できた。

『がんばってくだせェ』

俺はそれがわかると,照れ隠しにフンッと鼻をならして沖田を軽く睨んだ。
あいつもなんだかんだでお人好しだよなー。
『ドS』と『お人好し』って,対極どころかねじれの位置の関係な気がすっけど。
沖田から目線を外してを探した。
そんで,バス停の近くあたりで花子と喋ってんのを見つけた。

「おーい」
「………あ」

俺は随分と緊張感のない声でに話しかけた。
ただし,驚いたように声を出したのはじゃなくて花子だった。
肝心のはビクッと肩を揺らして振り返り,さっきまで強気な眼差しをしていた女と同一人物
とは思えねェほど,恐々と俺を見上げてきた。

「……」
「……」
「……」

や,やばい。
話しかけたものの,三すくみの状態になっちゃったじゃん!
そういえば「話しかけよう」と決意はしたけど,何を話そうかは全く決めていなかったという
ことに気付く。
どーすっかな~と頭をかいていると,花子がいきなりⅤサインをして,

「あけましておめっとー銀さん。」

そりゃあもう普通に,とてもにこやかに新年の挨拶をしてきた。
(…お,女ってすげえわ)
わけもなくそう思った。

「…ん。おめでとさん」
「今年もよろしゅ~な!」
「お,おう」
「あんなぁ,私は今日二次会に出よう思うとるんよ。銀さんは出る?」
「いや…」
「そ?んじゃちゃんを送ってやってくれへん?」

花子は「な!お願い!」と軽く頭を下げてくんだけど,不思議と有無を言わせねェ雰囲気があった。
けど花子の頼みに驚いたのは,当然俺だけじゃねー。

「は,花子ちゃん…?」

黙りこくっていたが慌てたように花子の名前を呼ぶ。
(…お前,腹くくったんじゃなかったの?)
俺は自分のことを棚にあげて,心ん中で思わずツッコミをいれちまった。
まァ「決意」と「実行」が必ずしもイコールで結ばれるたぁ限らねーってわけね。

「あ。でも今日はお持ち帰りしたらアカンよ?」
「いや,しませんって!」
「させないっつの!」

ほとんど2人同時につっこんでいた。
叫んでから「えっ」とお互いに顔を見合わせて…またもやほぼ同時に苦笑いを浮かべた。
それはなんとも微妙な笑いだったけど,張り詰めていた空気を和ませるにゃ十分だった。
花子は俺たちよりもずっと明るい笑顔を浮かべて,

「んじゃ~私は二次会に行くわ!年初めにいっちょ騒ぐで!」
「花子ちゃん飲み過ぎないでよ?」
「酔っ払って消火器とか壷とか買わされないようにな。判子は簡単に押すなよ」

と俺の言葉に花子は「大丈夫やって!」ともう一度声をたてて笑った。そんで,

「ほな,またな!」

掌をぴらぴら振りながら,1番大きな集団の方へと軽い足取りで近寄って行った。
花子は皆に向って「二次会行く人ー!」と賑やかに話しかける。
沖田もいつの間にかその集団へとまざっていて「俺も行きまさァ」などと言ってんのが聞こえた。
すると必然的にばらけていた奴らもそこへと集まり出した。
俺とを除いて。
もちろんチラチラこちらを見てくる奴らはいたし,不審そうに振り返って笑う奴らもいたけど。

――持つべきものは『空気を即座に読める友達』だな。

「花子ちゃんと沖田君には感謝…だね」

呟くように言うは,心からそう思っているようだった。

「そだな」

俺もそれには素直に頷いた。
そしてどちらからともなく連れ立ってとろとろと歩き出した。




時間が夜の9時,しかも新年会シーズンのせいだろう。酒の匂いのする奴らと何人もすれ違った。
つーか俺らも酒臭いんかねェひょっとして?
通りの両側の店から煌々と灯が溢れてくる中を,俺たちはゆっくりと歩いた。
マジ寒かったけど,早く歩こうって気分には全然ならなかった。

「あ~……どっか店に入る?」
「ううん,良いよ。帰りながらで」

俺が店の方を顎で小さくしゃくると,は首を横に振った。
まァ向かい合って畏まるのも緊張しそうだしな。こんな時に隣り駅同士は楽だ。
そのまま俺たちはしばらく黙々と歩いた。
『しばらく』っつってもそんなに長い時間じゃなかったかもしれねーな。
気分的には結構長い沈黙だったんだけど。
俺は頭をがしがし掻きつつ切り出した。

「あのよォ…こん前のことなんだけど」
「!」

途端にが緊張したのが空気でわかった。
ちょっ…やめてくんない?こっちにも緊張うつっちゃうからやめてくんない!
俺は心の中でそんなつっこみをいれながら(さっきからツッコミばかりだな…)言葉を続けた。

「あーと…本当は謝ろうかなー謝らないとマズイよなーとか色々思ったんだけど」

俺たちの横を車が何台か通り過ぎて行く。
そのたびにの姿が光に照らされたり影に染められたりする。
それがなんだかとても儚くて,俺は理由もなく少し不安になった。

「やっぱ謝んの止めるわ」

俺は自分の声に明確な形を見出せないまま,それでも話し続けた。

「うまく言えねェけどさ…謝る方がお前に失礼な気がするし」

謝ろうと思った。
けど「違うだろ」って思う自分もいた。
こういう場合の「ごめん」て言葉には,「そんなつもりはなかったんだけど」という自己弁護の
意味が含まれちまう気がした。だから謝るのはなんか違うと思った。
俺は――いずれは「そんなつもり」があったから。
それに――心の底ではこうなったことを後悔していねーから。

「けど…もしお前が謝って欲しいんならいくらでも頭下げるよ」

順番間違っちまったことは…それは嫌だと思う。そこはやっぱ後悔してる。
とはちゃんと順を追って仲を深めていきたかったから。
けどを抱いたこと自体は後悔してねーし。むしろ逆って言っても良いくれェだし。
…さすがにこれを言ったら怒るだろうから言わねーけど。

「ううん。謝らなくて良いよ。それ正解」

俺は思っていることの半分も言えなかったけど,それでもは笑ってくれた。
それは苦笑いだったけど決して不愉快そうじゃなかったから,俺は安心した。
は肩にかかっている自分の髪を指先で触りながら話し始めた。
『髪を指先で触る』…これは何かを考えてる時のこいつの癖なんだよな。

「あのね,」
「ん?」
「わたし…嫌いになってないよ。銀さんのこと」
「!」

心臓が震えた。
いや,比喩じゃなくてマジで震えた。
大きな嬉しさと深い安堵で,心だけじゃなくて体までもが震えたんだよ。

「その…妙な展開になったな~とは思うけど」
「まァたしかにな」

今度は俺が苦笑いしちまった。
たしかに『妙な展開』だよなって思った。
けど…嬉しさとか安心とか苦笑いとか。
そーゆーの全部。
次のの言葉で吹っ飛んだ。

「だから銀さんが責任を感じてるんだったら…その…別に良いから」
「…は?」

思わずあんぐりと口を開いた――白い息が意図せずして零れ出た。
(別に…良い…?)
なんだよそれ。
の言葉が頭ん中で響いて,体の中心に鈍い痛みが走った。
俺がじっと見つめると,気まずいのかなんなのかは顔を明後日の方向に向けた。
…自分の目がつり上がっていくのがわかる。

「『別に良い』って何が?」

俺自身びっくりするくらい冷てェ声が口から出た。
言葉の氷柱がに突き刺さって,その横顔がにわかに歪んだ。
でも仕方ねーじゃん。
今のはちょっと…かなり頭に来たんだから。

「『別に今まで通りで良い』って,どーゆー意味?」
「…」
「はそれで良いわけ?」
「…だって」

俺に言い返そうとするの声は震えている。当たり前ェだけど寒さのせいなんかじゃねー。
ああもう…怖がらせてェわけじゃねーのに。
不安にさせてェわけじゃねーのに。
むしろ…笑っていてほしいのに。

「だってその方が…楽でしょ?」

顔をそらしたままは言った。
そのせいでの声が曲線を描いて俺に届く。
真直ぐな言葉になってねーよ。
曲がった言葉なんてお前らしくねーよ。

「ちゃんとこっち見て言えよ」
「…銀さん」
「は全部無かったことにしたいわけ?違うよな?そんなん無理だってわかってんだろ?」

さっき――飲み場にいた時。
こいつはたしかに『なにかを決意した目』をしていた。
2回目に目が合ったあの時,は俺から目をそらそうとしなかった。
なのになんで「無かったことにしよう」みてェなことを言いやがんだよ?
(何をそんなに怖がってんだよ?)
このクソ寒ィ中,通りで立ち止まって言い合いをしている俺たちに好奇の目を向ける奴らが通り
過ぎていく。けどそんな知りもしねー奴らの視線なんか今はどうだって良かった。
そんな不特定多数の視線なんかより,の――
――惚れた女1人の視線をこっちに向けることの方が100億倍重要だった。

は今にも泣き出すんじゃねーかってくらい寂しそうな顔をしていた。
見ているこっちまで泣きたくなるくらい…悲しげな表情だった。

「わたしだって…嫌だけど。でもそれが1番楽だし,責任なんて感じて欲しくないし…」 
「楽だからとか,責任だからとかなんて関係ねーってんだよ!」
「!」
「あーっもう!!!」

衝動的に叫んじまった。
いやだってさ…今更ながらなんなのこのコは!?
『無かったことにすんのが1番楽』で『責任なんて感じて欲しくない』って…
そう思ってんなら,なんだってそう言いながらそんなにも辛そうな表情してるわけ?
(むしろホントはお前真逆のこと思ってんじゃねーの!?)
どうしてそんなに天邪鬼なわけ!?
なんでこんなに面倒くせェ女を好きになったんだ,俺は?
…いや,この世に面倒くさくねー女なんていねーか。
つーか俺はこんなに君のこと好きなのにまだわかんないんですか!!!

「お,怒らないで…」
「あー違う違う。違うから」

俺は顔に掌を当ててゆっくり深呼吸した…びびらせてどーすんですか俺。
ネオンサインが光る街中で,こうして2人突っ立っていることが急に現実味を帯びてきた。
ドラマとか漫画だとこーゆー時都合よろしく周囲に人はいねェもんだけど。
俺たちが生きるのは呆れるくらいに現実で。
横を車がびゅんびゅん通るし,たくさんの人間が不規則な足取りで横切っていく。
ホントびっくりするくらいに『現実』だ。

「俺は無かったことにしたくねェんだよ」

無かったことにできる『現実』なんてこの世にありゃしねーよ。
あったとしたらそりゃあ――現実なんかじゃねェ。
ただの嘘っぱちだろ。

「しょーがねーじゃん…を好きなんだから」

嘘じゃねーから…お前を好きだってこと。
お前が大事だってこと。
お前と一緒にいたいってこと。
なにからなにまで。どこからどこまでも。
本当の気持ちだから。

俺とから言葉が途絶えた。
繁華街は相変わらず騒がしくて,静寂に包まれることはない。
それでもこうして2人の間から言葉が消えたことで,圧倒的な質量をもった沈黙が俺たちに圧し掛かった。
が目を見開いて真直ぐに俺を見上げている。
今度は俺が目線をそらす番だった。
俺は口元から顎を隠すように掌を当てて,そっぽを向いた。
やべェ…今自分の顔が赤いんだか青いんだか想像つかねーわ。

「…」

は黙ったまま,まじまじとそんな俺の顔を見る。
ちょっ,やめてくんない。人が隠そうとしてる表情をそんなにじろじろ見んのやめてくんない!
そんな俺の心の叫びなんて届くはずもなく,はじっと俺を見上げている。
つーか…何か言えってんだよ。
こちとらお前の反応や表情にバカみてェに一喜一憂しんてだよ。
早く…早く…何か言えよ。
(死刑執行宣告を待つ囚人ってこんな気持ちなのかもしんねェ…)

「なァ」
「えっ?」

とうとう我慢できなくなって,俺は口を開いた。

「なんか言ってくんない?」
「えっと…何かって言ったって…」
「あるでしょーいろいろ。『わたしも』とか『よろしくお願いします』とか『付き合いましょう』とか」
「全部『YES』の返事じゃん」
「…ちげーの?」

とんでもなく情けねェ声が口から出た。
なんでだ。
俺,が関わるとなんでこんなにヘタレになっちまうわけ?
普段はもうちっとマシなのによ…アレか?なんかコイツ魔法でも使ってんのか?
コンヒュとかメダパニとかそのへん。ステータス異常『混乱』系。
俺が両手で顔を乱暴にさすると,が小さく噴出すのが聞こえた。
思わず顔を上げてを見た。

は――笑っていた。
寒ィからだよな,鼻の頭が赤くなってっけど…それもなんか可愛かった。
あー…つーか,お前はどんなんなっても可愛いよ。
そんなことをぼんやり思ってる俺の目の前で,はこくんと1つ頷いた。

「わかった」
「なにが?」
「わたしも銀さんに賛成ってことで」

口調はあっさりしてっけど,の頬は林檎みてェに赤くなっている。
走り去る車のライトを受けての瞳がきらきらと光った。
相変わらず寒くて仕方なくて,俺の息もの息も真っ白だったけれど。
体の奥に火がついたみてェに,皮膚の下は熱く熱くほてった。
俺は――ごくりと唾を飲み込んだ。

『賛成』って……つまりそういうことだよな?『おっけー』ってことだよね?
食い入るように目を見つめると,は照れくさそうにそっぽを向いた。
頭ん中で教会の鐘が鳴り響いている気がした。いやクラッカーが弾けとぶ音でも良いかも。
つーかもうマジでなんでもいい。
(…やべェ)
嬉しすぎる。
今なら笑って死ねる気がする。いや死にたくねーけど。
だってこれからずっとと一緒に生きていきたいから。
これだけでも充分嬉しかったけど,俺はちょっと欲張ってみた。

「もうちょっと…なんかねーの?」
「んじゃ『わたしも』で『よろしくお願いします』で『付き合いましょう』」
「えーなにそれ引用?」
「駄目?」

は首をくいっと傾げて訊いて来る。
…駄目なわけねーでしょうが。

「ぅわっ」

なんかもー笑いが込み上げて来ちまって,俺はの腕をぐいっと引っ張った。
とっさのことに抵抗らしい抵抗もせず,は俺の腕ん中におさまった。
俺よりもの体温の方が少し高くて心地良い――子どもって大人より体温高いんだよな。
(お前やっぱお子ちゃまだよ)
俺は目の前にあるの頭のてっぺんに口をくっつけた。
あー…あったけェなあ。
人ってあったけェ生き物だよなあ。
笑いが込み上げて来ていたはずなのに,なんでか少し泣きたい気分にもなって不思議だった。

「もういーよなんでも。がいてくれんなら。銀さんはそれだけで良いんですヨ」
「なんか語尾が変だよ」
「…流せよそこは。照れてんだよ,ちくしょー」
「ふふふ」

腕の中でが笑う。
その振動がダイレクトに伝わってくる。
すっげー幸せだ。
もうマジで幸せなのに。ホントのホントに幸せなのに。
胸の中心がぎゅっと締め付けられるような,ひどく切ない気持ちが湧き上がった。
…意味わかんねーわ。
でもきっと『本当の幸せ』ってのは決して甘いもんじゃなくて――
――きっとこういう風に切ないもんなんだろうなって頭の隅で思った。

下りっぱなしだったの腕が,そろりそろりと俺の背中に回った瞬間。
俺の中の『切なさ』も最高潮に達して。
なんかちょっとホントに目に涙が浮かんできて。
それを知られたくなくて,もっと強くぎゅっとを抱きしめた。




体で繋がって,付き合い始めて,両想い。
まるで逆さまな手順で一緒にいることになった,俺と彼女。

でもまァ「結果オーライ」って言うじゃん。
世の中にゃ便利な言葉があるもんだ。

時々ケンカもすっけど
なんだかんだで仲良くしてる。

逆さまに始まった2人だから
少々のことじゃ引っくり返らないってわけさ。

たとえ引っくり返ったって
きっとすぐに元に戻るさ。

俺たち2人の関係は――そうだな。さしずめ,



           天地有用。



                              ~fin~

2008/11/04 up...
※天地無用=取り扱う際に上下逆さにしてはいけないという意。※天地有用=←の逆。
最後までお付き合い下さりありがとうございました!