ネオンサインが輝く夜の繁華街にいると,街全体がアルコールに浸ってしまったかのような錯覚を 覚える。虚飾や夢幻に彩られた闇の中では,明日の朝には忘れているだろう無意味な会話の羅列が, あちらこちらを波打っている。 …『この店』の中も同じだ。 いくら楽しげな笑い声が湧き上がろうと,所詮は夢の中での出来事。一時のことであり,実のない ことだ。実のないことほど痴れたことはない。 つまりは<実にくだらない>。 「よォ,伊東…楽しいか?」 ソファの端に1人で座っていた僕に,珍しくも土方君の方から話しかけてきた。 「土方君。僕はこういう場所はあまり…」 「だろうな…俺もだ」 彼が手にしたボトルを傾けて来るので,僕もグラスを持ちそれを注いでもらう――本当に珍しい。 ちなみにボトルに入っているのはアルコール分ではなく,ただのジンジャエールだ。 こういった場所で――所謂『キャバクラ』で酒を口にしないのも変な話なのだろうが。 僕らはここに酒を飲みに来たわけではないし,ましてや女性と…その…話をしに来たわけでもない。 「…」 僕はジンジャエールを口に運びながら,少し離れた場所に座っている『彼ら』に目をやった。 煌びやかな女性たちに囲まれ,大いに笑っている我らが局長と…そして, 「将軍様に夜遊びをご教授するだなんて,松平公もお人が悪い」 この国で最も高貴な血筋の侍――徳川茂茂様。 一体何をどう間違ったら,このようないかがわしい場所に足を運ぶことになるのか。 わけがわからない。 土方君は煙草に火をつけると,投げやりな溜息をついた。 「とっつぁんなりの親心らしいぞ」 「どこの世界に親から勧められてキャバクラへ行く息子がいるんだ」 「いるんだよ,この国のトップに」 「だとしたら近い内にこの国は終わりそうだな」 「否定はできねェな」 「…」 僕も深い(そして不快)溜息をついた。 なんでも,以前は松平公も一緒にここへ来たのだという。 しかし今夜は「若い奴だけで楽しんで来いや」という優しいんだかなんなんだかな公の言葉により, 上様だけがお遊びに出ていらっしゃっている。 僕らはその護衛をするためにこうして座っているのだが, (やっぱり来るんじゃなかった…) 本来,僕はここに来る予定ではなかったのだ。 けれどもなんと言えば良いか…<そういう気分>だったのだ。 いや,決していかがわしい気分だったというわけではなくて。 【君がどこぞの馬の骨とどこかで会っているのかもしれない】と考えると…なんというか…こう… …ひどく落ち着かなかった。とてもじゃないが,部屋で静かに書類へ目を通すような心持にはなれず。 そんな鬱々とした気分でいた時,近藤さんの「たまには先生もどうですか!!」という根明な言葉に のせられてしまい――そして今に至る。 「はあ…」 まあいい。起こってしまったことは仕方ない。それに,なんのかの理由をつけた所でとどのつまりは 自分でくだした決断なのだ(たとえ一時の気の迷いであっても)。 それに考えようによっては,こういう機会は滅多にない(2度とあってたまるか)。 「ん。無くなっちまったな」 土方君が空のボトルをテーブルに置いたので,僕は側を足早に通り過ぎようとする女性に声をかけた。 「そこの君,すまないがジンジャエールをもう1本いただけるかい」 「!」 一体どうしたというのか。 声をかけた女性は,びくりと肩を跳ねさせた。 確実に僕の声が聞こえたであろうに,こちらを振り返ろうとせず,こそこそと立ち去ろうとする。 「待ちたまえ。君だよ,君」 「…」 「…?聞こえているの…か…」 ――聞こえていた。 しっかり聞こえていた。聞こえていたからこそ,だったらしい。 その女性は,手にしたお盆で顔を隠しながらこちらを振り向いた。 しかし,たとえ顔を隠していても【知り合い】というのはなんとなくわかってしまうものだ。 「…」 「…」 「…?」 土方君の呆気にとられた声が響いた。 名前を呼ばれた彼女は,諦めたのか覚悟を決めたのか(諦めと覚悟は時に似ている)お盆をどけた。 そして―― 「…こ,ここで会ったが百年目。なーんて,」 「ちょっと来なさい」 なにをふざけているんだ,このバカ娘。 僕は彼女の首根っこを掴み,ずるずると引き摺った。「ちょっ…猫の仔じゃないんですよ!」などと 抗議の声が耳に入るが,無視だ。だいたい,そんなこと言われずとも猫の仔がキャバクラなどで働か ないことは知っている(我ながら超絶な嫌味だ)。 賑やかにさんざめく場所から離れ,部屋の隅へと辿り着くと,僕は立ち止まって君を振り返った。 彼女は僕の剣幕に驚いたのか,即座にあさっての方向を見た。今更他人のふりをするな,バカ。 「…こんなところで何をしているんだ,君」 「…お,怒っちゃイ・ヤ」 「呆れているんだ,呆れて!!」 思わず側の壁をばしばしと叩きまくると,君は‘びっくぅ!’と体ごと飛び跳ねた。 いや待て…落ち着け,伊東鴨太郎。 女性を怖がらせてはいけない。順を追って訊いていくんだ。 「まず…その格好はなんだ?」 深紅の生地に黒薔薇の刺繍が施された和風と洋風の融合体…着物ドレスとでも言えばいいのか。 アキバNEOをうろついているオタク達が好みそうな服装だ。 「なんだって…今一部で流行しているゴスロリ着物です」 【一部で】と付く時点で【流行してない】ってことだろうが。気付け。 「そんな着物どこで手に入れたんだ?」 「『ゴスロリ同好会』の友達が貸してくれたんです」 「…」 『仮面舞踏会研究会』の次は『ゴスロリ同好会』か。 どんなキャンパスライフを送れば,そういう変な輩とばかり知り合えるのか。 狙っているとしか思えない。何を狙っているのかはよくわからないが。 「で?こういういかがわしい場所で働くことが『どうしても外せない大切な用事』なのか?」 「うっ…ちゃんとした理由があるんです!」 君はグッと拳を握り締めた。背後から聞こえる酒の入った者たちの笑い声を背負って,彼女は 非常に力強く言い放った。 「ここでキャバ嬢やってる友達に『彼氏とデートしたいから1日だけ代わって』って言われて!」 「あまりこういうことは言いたくないが,君はもっと友人を選ぶべきだ!」 このコは友人達を集めて変人コンテストでも開くつもりか(君も十分優勝候補だがな)。 というか,お人好しにも程があるだろう…お人好しも度を過ぎればただのバカだぞ。 「今すぐ帰っ…!」 「ちゃ~ん。何やってるのー?」 「あっ…お妙ちゃん!」 今すぐ帰宅するよう促そうとした時,涼やかな女性の声が横から入って来た。声の方を振り返ると, 眉目秀麗な女性がこちらへ足早に歩み寄って来るところだった。その女性はたぶん…いや確実に, ここで働いているキャバ嬢の1人なのだろう。だがしかし, (たしか…近藤さんが追い回している女性も『妙』という名前ではなかったか?) ということは,この細腕の女性が近藤さんをズタボロのゴリラにした例の女傑なのか? そんなまさか…信じられない話だ。というかむしろ想像できない。 もっと見るからに逞しい筋肉質の女性を想像していたのだが(近藤さんの相手だし)。 つくづくわからない生き物だ,女性というものは。 などと僕がごちゃごちゃ考えている間に,その女性――お妙さんは君のすぐ側に立った。 「これからゲームを始めるの。ちゃんも参加してくれる?えっと…こちらの方はちゃんの お知り合い?」 「あのね…わたし,普段は真選組で事務のバイトをしてるの」 「まあ。あんなゴリラの巣窟で働いてたらゴリラになっちゃうわよ」 「な,ならないよ!ていうか,ゴリラは1人だけだよ!」 さりげなく酷いことを言うな。 真選組をフォローするかわりに近藤さんを激しく貶めているぞ。 頬をひきつらせる僕を,君は手のひらで示した。 「こちらは伊東さん。わたしのボスなの」 他に言い方はないのか。 たしかに間違っちゃいないが。 お妙さんは「あら」と口に手を当て,それからこちらへ頭を下げた。 「すみません,伊東さん。本当ならちゃんには,裏方へ回ってもらう予定だったんですけど。 今日に限って人手が足りなくなっちゃって」 「いや…何かあったんですか」 「それがねぇ…昨日従業員皆でうな重を食べに行ったんですけど。鰻にあたっちゃったみたいで。 ほぼ全員が臥せっているんです。本当に困ったものだわ…将ちゃんが来る時ってなぜかいつも 人手が足りなのよねぇ」 (…しょうちゃん?) ひょっとしなくても上様=将軍様のことか? 畏れ多いことながら,キャバ嬢の前では上様も形無しであられるのだな。 それにしても鰻にあたるだなどと…ということは,人に仕事を押し付けてデートに行った君の 友人もひょっとして今…? ぶつぶつと考え込んでいると,お妙さんは君の肩をぽんぽんと叩いた。 「というわけで,ちゃんお借りしますね。伊東さんもご一緒にどうですか?楽しいですよ?」 「はあ」 僕があやふやに頷くと,お妙さんは君に片目をつぶってみせ,踵を返し宴の席へと戻っていった。 「ささ!伊東さんもゲームしましょ!」 「…調子にのるんじゃない」 「まあまあ」 君はへらっと笑うと,僕の手をぎゅっと掴んだ。 「!」 「さ,行きましょ!」 そのままずんずんと歩き出すので,先程とは真逆に今度は僕が引き摺られる形になった。 (なぜだ…) ものすごく不本意であるはずなのに。 手のひらの感触が心地良い,などと思ってしまうのは。 (…不本意だ) 内心の動揺をひた隠しにし,静かな部屋の隅から一転,再び騒がしい部屋の中央へと戻ってみれば。 1つのテーブルの周りを8名の男女がぐるりと囲んでいた。 上様と近藤さん,土方君,沖田君(未成年がそこで何をしている),お妙さん。花形の眼帯をした女性, そして―― (あの2人は…女性か?) 1人は,銀髪ツインテールの死んだ魚のような目をした女性(?)。 もう1人は,廃校寸前の学校に通学していそうな眼鏡におさげの女性(?)。 なんというか…女性にしては体格がえらくがっちりしているような気がするのだが。 いや,そんなことを女性に言っては失礼だな。ひょっとすると気にしているかもしれないし。←素 「何のゲームをするんですか,姉上?また将軍様ゲームですか?」 眼鏡の女性(?)がお妙さんに尋ねた。そうか…妹さん(??)なのか。言われて見ればたしかに 目元が似ている。問いかけられたお妙さんはというと,フッと息を零すように笑った。 「将軍様ゲームはもう古いわよ。今回は…これ!ラブジェンガ!」 どーんという効果音と共にテーブル上に置かれたのは,白とピンクの2種類のブロックが交互に積み 上げられた塔のような物体だ。その積み木のタワーを見た近藤さんは,すかさず手を挙げた。 「はい!一体どういうゲームなんですか,お妙さん?」 「ラブジェンガについて知らない人はネットで検索してくださ」 「いや今ちゃんと説明しろよ!」 銀髪ツインテールの女性(?)がひどくもっともなつっこみをいれた。すると,お妙さんはとても アンニュイそうな表情になり, 「面倒なんですよ,キーを打つのが。どっちみち読者は検索すると思いますし」 「お妙ちゃん,誰の目線で言ってんの!?」 「…仕方ないわねぇ。説明しましょう」 君が冷や汗をかきながら叫ぶと,お妙さんはやれやれと溜息をついた。 なんというか…世界観を崩壊しかねない女性だな。すごい。 さすがはゴリラに惚れられる女傑だ(などと口に出したら僕も半殺しにされそうだな)。 「積み上げられたブロックのタワーから,1本だけブロックを抜き取って,それを1番上にバランス よく乗せます。これを順番に繰り返していって,タワーを崩してしまった人が負け。これが普通の 『ジェンガ』です。『ラブジェンガ』はブロック1つ1つに『命令』が書かれてあるんですよ。 主に恋愛関連のね」 その説明を聞き,土方君は胡散臭そうに(そして面倒くさそうに)顔をしかめた。 「はあ?恋愛関連?」 「そうね。例えば…」 お妙さんはタワーの1番上からひょいとブロックを1つ手にとり,『命令』を読み上げた。 「『パンツの色を発表』」 「どこが恋愛関連んんん!?」 銀髪の女性(?)が手をわなわなと震わせて叫んだ…もっともだ。 しかし,お妙さんはつとめてさらりと続ける。 「ちなみにこの玩具,対象年齢は【15歳から】となってるの。天下の『ときメモ』でさえ【12歳 以上対象】なのを考慮すると,今時の玩具にしては比較的高めの年齢設定と言えるわね」 「だからなんだってんだよ!」 「大丈夫ですよ。普通の命令もありますから。『1人コントをする』とか」 「『普通』でそれ!?ハードル高っっっ!!!」 「あと,『LOVE』って書いてあるのをひくと自分の好きな指示を出せます」 なんというか…すごいゲームなのだな。これをこのメンバーでやるというのか? やる前から大混乱が容易に予想できるのがものすごく嫌だな。 (君は…?) ちらりと横を見ると,彼女は「早く始めたくてしょうがない」とでもいった風にウキウキと笑って いる――やっぱりか。 「面白そうだな」 上様も頷いていらっしゃる。「面白そう」か…?畏れながら「大変そう」の間違いではないか? できれば直ぐにでもこの場を離脱したかったが,君を残してはそうもいかない。 こんないかがわしいゲームにこのコを1人で参加させるわけにはいかない。 言うなれば『親心』だ…うん。 そうこう考えあぐねている間に,合コンなどでは定番の『自己紹介』と『席替え』が同時になされた。 時計盤でいう【12】の位置に上様。 そして上様から時計回りに――お妙さん,近藤さん,花形眼帯をした女性=九兵衛さん,土方君,銀髪の 女性=パー子さん,沖田君,お妙さんの妹(眼鏡)=パチ恵さん。 そして僕,君の順に輪になった。 まあ,お手すきの方は図に描いてみてくれ。その方がわかりやすいから(カメラ目線)。 つまり,君は右に僕,左に上様という大変珍しい構図の真ん中に座ることになった。 「じゃあ,早速どうぞ。将ちゃん」 お妙さんが上様へにこやかに笑いかけた。 「頑張ってください,上様!」 「うむ。やってみる」 近藤さんの応援を受け,上様は静かに頷いてジェンガへと手をお伸ばしになった。タワーから慎重に ブロックを引き抜き――『命令』をご覧になった。 「なになに…ふむ」 ≪右隣の人の魅力を3つ言う≫ 上様から見て右隣は…右隣は! 「えっわたしですか!?」 君はぎょっとして自分自身を指差した。 「おー良かったですねィ,上様。小娘を公開言葉責めにできるなんて羨ましいでさァ」 「お前は黙ってろ,総悟!つーか何言ってんの!?」 最低の野次をとばす沖田君を,土方君が怒鳴りつける(僕も怒鳴りつけたかった)。 君はよもやこんな形で上様からお声をいただくことになるとは思っていなかったらしく(そりゃ そうだ),ひどく緊張した様子で背筋を伸ばした。そんな彼女を上様はじっとお見つめになる。 そのまま数秒経つと,君は照れたように小さく笑った。それを見た上様が, 「…笑うと可愛いな」 ぽつりとおっしゃった。さらに, 「やさしい目をしている。それに,髪がきれいだ」 「あ,あああありがとうございます。もももも勿体無いお言葉です」 「ふむ。3つにしぼるのは難しいものだな」 「…というか,今のが4つ目なのでは?」 畏れながら僕がそう指摘すると,上様は「そうか」と頷かれて口をお閉じになった。 すると,頬を赤くした近藤さんが(なぜ君が照れているのだ)鼻息荒く, 「いや~さすが上様!聞いているだけでもドキドキしましたよ!身体中の穴から汗が出そうでした!」 「気持ち悪い表現はやめてください。ねじり斬りますよ」 即座にお妙さんが一刀両断した(重ね重ねだがすごい)。それからすぐに笑顔に戻り, 「時計回りでいきましょう。てことで,次はわたしがひきますね」 いたってさっさとジェンガを引き抜いた。 「え~と…」 ≪全員のメルアドをゲット!≫ 「いりません。さ,次」 「…」 「…」 「…」 「…」 「あ,あのお妙さん!これ,俺の…!!!」 「いりません」 「…すみませんでした」 しーん,とテーブルが冷ややかに静まりかえる。 なんなんだこのキャバクラにあるまじき暗黒の空気は。この空気を圧縮したら立派なダークマター が精製されそうだぞ。つくづく恐ろしい女性だな(近藤さんに人権を与えていないあたりが特に)。 「よ,よーし!次は俺だぞ!」 涙目になっている近藤さんが,ジェンガに手を伸ばした。彼の太い指でジェンガを取るのはなかなか 困難なようだったが,なんとか無事に抜き取った。 「なになに…?」 ≪スリーサイズを異性1人だけにささやく≫ 「誰が喜ぶんですか?」 「素で辛辣なことを言うな」 全く悪気無さげにそう発言した君の頭を,僕は小突いた。この天然核弾頭娘が。 「スリーサイズかあ。俺,自分の知らないんだけど」 「いや知らなくて良い。別に知りたくもねェし」 土方君が煙草に火をつけながら言うと,近藤さんはとうとうテーブル上に『の』の字を書き始めた。 しかもそれを慰める人物が誰一人としていなかった(合掌)。 「次は僕か。あまり無理難題でないと良いんだが」 それまでじっと黙っていた九兵衛さんが口を開いた。そして実に鮮やかな手付きでジェンガを抜き 取った(まるで居合いのように)。 「ええっと…」 ≪好きな異性のタイプを発表する≫ 「お妙ちゃんだ」 「違う違う。異性のタイプだよ,九ちゃん」 君が訂正すると,九兵衛さんはきょとんと目を瞬かせた。 「男のタイプか」 「うん」 「男は嫌いだ」 「そっか」 「ああ。つい最近まで男だったからな」 「そうなんだ。それなら急には無理だよ」 「期待に応えられず,すまない」 「謝らなくてもいいよ。しょーがないもん」 …しょーがないのか?それで済ますのか? なんというか…天然2人の会話は,ひどく不思議な空気が流れるものなのだな。 先程の暗黒の空気ほどではないけれども,一般人が口を開きにくい空気をかもし出している。 なんと言っていいやら…。 その微妙な空気を打ち破ったのは,真選組の斬りこみ隊長だった。 「さ,次は土方さんですぜ。面白ェの引いてくださいよ」 「ぬかせ」 ふーっと煙を吐き出し,土方君は煙草を灰皿へと押し付けた。面倒くさがってはいるものの,勝負事に 負けるのは我慢ならないのだろう。ばきぼきと指を鳴らし,ジェンガに手を向ける。そうして取った ブロックの文字に目をやり, 「あーと…」 ≪外国人風に「Lucky」と言う≫ 「…」 「…」 「…」 「…良いのか?」 ぽつりと呟いたのは九兵衛さんだ。 「まんま奥州筆頭だねィ」 ずばり言ったのは沖田君で。 「待て。原作の世界観でさえ壊しかねなかったネタよ。ここでやったらどうなると思ってんのよ」 パー子さんが青ざめながら彼を制し, 「いやどうなるもなにも,既にこの会話からしてアウトでしょう…それにこのネタ,まだ単行本には 収録してないネタだし。あ,2009年7月現在です」 パチ恵さんは冷や汗を流しつつ,カメラ目線で言う。 「ていうか『中の人繋がり』を知らない人には全く面白くもなんともないネタですよね。パロディ とかオマージュって,元ネタがわかって初めて笑えるものなんですから」 天然のくせにどうしてそう時々辛辣なことを言うんだ,君。 暗黒の空気よりも,ダブル天然の空気よりも,はるかに気まずい空気が流れる。土方君はというと, ひどく動揺している。ライターをくわえて,煙草をかちかち(くしゃくしゃ)している。逆だ,逆! どんだけ動揺してんだ!! ――色々と危ない橋を渡りながらも(渡れているのかが甚だ疑問だが)ゲームはまだまだ続く。